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評者◆秋竜山
やがて、自分も助けられる、の巻
No.3510 ・ 2021年09月04日




■町内のある家の垣根から植木の枝がはみ出ている。そのはみ出た枝をいつも見上げている人がいた。いつも、やってきては見上げている。「いい枝ぶりだ……」と、その男はいつも同じようにつぶやく。しばらく植木の枝をながめ立ち去るわけであるが、いつものようにやってきては同じことを繰りかえす。その様子に家の者が気づく。そして、「また、今日もきている」。不気味な気配さえただよってくる。そして、今日はヒモを手にしている。ただごとではない。そして、男が今日もやってくる。「アレー」と、男は叫んだ。みごとな枝ぶりはノコギリで切り落されてしまっていた。男は、またしてもつぶやく。「あの枝ぶりも悪くはない」。
 山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書、本体七五〇円)では、
〈従来型地域コミュニティのもう一つの特徴として、かつては多様な層の人が、同じ土地に暮らしていたという点が挙げられるでしょう。女性も男性も、子どもも、高齢者も一つの地域内にいた。比較的裕福な家も、貧しい家も、健康な人もそうでない人も、貧しい長屋が続く地区も昔からありました。より広い範囲で考えれば、雑多な人々がその地域全体を構成していたといえるでしょう。比較的裕福な家は、いざという場合に貧しい人々に手を差し伸べる余裕がありました。地域で困りごとが起こった際は、仲裁や判断に乗り出す役割も求められていました。「健康で豊かな人」は貧しい人を助け、「貧しく健康でない人」は周囲からの見守りや小さな好きに支えられて生活していたのです。つまり「助ける人」と「助けられる人」が混在しているのが、あるべき、「地域コミュニティ」の姿だったからです。しかし、現代社会で進行しているのは、階層による地域の分断です。「富裕エリア」と「貧困エリア」が、明確に分かれてきたのです。〉(本書より)
 大問題は高齢者が多くなってしまったことにある。高齢者をふやすなということはできないだろう。少子化をとめるのは子供をどんどんうんで、ふやせばよいのである。高齢者には、そのような芸当はできない。子供はうめふやせ。高齢者をうめやふやせは無理というものだ。うまれたからには、やがて高齢者になる。高齢者は社会問題である。高齢者とならない方法など考えられないのである。
 結局は、高齢者というのは、助けられる人となってしまうのである。助けられる人がいたら、助ける人がいなくてはならない。助ける人は誰だ。若い人たちである。その若い人たちも、やがては助けられる人にまわらなければならない。垣根からはみ出ている枝ぶりのいい植木をながめているのは、いつも「助けを求めている人」だ。そこを通るたびに立ち止まって深いため息をつく。そして、垣根の中の庭木のある住人は「助けを求められている」のである。ノコギリで枝ぶりのいい木を全部切り落してしまった。これで、垣根の外の人に気をつかうこともなくなるというものだ。
「待てよ」と、彼は気づく。枝ぶりのいい庭木はすべて無くなってしまった。と、いうことは、私はいったいどーしたらいいのだ。どーなってしまうのだ。助けるということは、やがて、自分も助けられるということである。いい枝ぶりの木のある垣根のところに、もう誰もたたずんだりしない。







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