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評者◆秋竜山
釣りはまさにマンガの世界、の巻
No.3509 ・ 2021年08月28日




■マンガ家が好んで描く、いわゆるナンセンス・マンガ(コミックにあらず)は、そのマンガに笑いを求めてである。特に釣りをテーマにしたものが多くあり、万国共通のテーマでもある。外国マンガに多いのは、外国人が釣り好きの証拠だ。釣りをする最中にもっとも笑いがうまれる。小指ほどの逃がした魚を、両手をひろげて「このようであった」などというのは有名である。
 一人の男が一匹を釣りあげた。「それ!!」と、ばかりにそこへ集中し満員となるなど。釣りあげようとする人間と魚の戦いである。何のために釣りをするのか。「食べるためである」。釣りマンガで欠かせない笑いは、釣り糸のからみあいであろう。さてこれから釣りをはじめようとした時、その釣り糸をからめてしまい、それをほぐすために、結局は最後までかかってしまい、ついに、釣りをする時間がなかった、なんてのは釣りマンガのための笑いであろう。釣り糸をほぐす時にその人の性格が出て面白くさせる。
 宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く――中国絵画の意味』(ちくま学芸文庫、本体一二〇〇円)では、
 〈明代になると、宮廷画家や転業画家の山水画において、漁師や漁労の主題はなくてはならない重要な画題となった。(略)倪端の「捕魚図」(国立故宮博物院・台北)、呉偉の「漁楽図」(故宮博物院・北京)、朱端の「寒江独釣図」(東京国立博物館)など枚挙にいとまがない。なかでも呉偉は「漁楽図」を最も得意とし、多く描いている。とくに湖北省博物館の「漁楽図」(図15)は、冬の寒さの中での漁を描き、五代の「江行初雪図巻」の漁師たちの直系の子孫といえる。(略)〉(本書より)
 つぎつぎと釣り上げた魚を逃がしている。「私は、このように逃がしてやるために釣りをしているのだ」と、いう釣り人。釣り上げた時の快感、逃がす時の快感、二つの快感を味わうための釣りである。まさに、マンガの世界だろう。広大な海、その海面から一匹の魚も顔を出していない。どこにいるのかわからないのに、釣りをする。だからこそ釣りをするのか。考えてみると、まさにマンガの世界ということになるだろう。
 今、想い出したのが、ウン十年前、ある神社の祭典に人寄せの中で、釣りを商売としていた。釣りといったら、魚釣りと決まっているが、そうではなかった。ヒヨコになってピヨピヨ鳴いている沢山のヒヨコを釣り上げるというのであった。なんとザンコクな。魚ならザンコクとは思わないが、ヒヨコであると、ザンコクと思えてくる。なぜ、魚だとなんともなく、ヒヨコだとザンコクと思えるのか。そして、それを面白がって釣り上げている人たちが大勢いたということであった。私は、漁師の家に生まれたということで、漁師になった。主として寒ブリの定置網漁業であった。陸から一千メートル沖合いに網を張って、入ったブリを漁かくするのであるが、一万匹のブリをごっそりとるのである。それは釣りとは異なるが、魚をいけどる意味においては違いはない。ザンコクといえばそうも思えてくる。だからといって、「ザンコクでみてられないヤ」と、いおうものなら、「この大バカ者が!!」と叱りとばされるだろう。心のやさしい漁師ともちがう。







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