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評者◆休蔵
ネット社会できちんと生き抜くために
インターネットというリアル――インターネットの技術と文化の変容
岡嶋裕史
No.3506 ・ 2021年07月31日




■今やインターネットは、仕事にも日々の生活にもなくてはならない。およそ四半世紀前には、そんな便利なツールはなかった。当たり前のことだが、何をするにもアナログな手続きで過ごしてきた。
 そんな環境でも当時は不便さを感じなかったが、令和の時代の自分からするとよくぞ生き抜いてきたと妙に感心してしまう。ほんと、どうしてたんだろうってことばかりだ。
 本書は、ネット社会と化した現在から過去を振り返り、その普及とともに変化した社会情勢について教えてくれる。
 まず、インターネットとはどのようなものかを改めて示してくれる。
 ネット社会は、膨大な情報に触れ得る、広く世界へと開かれた社会であると感じてきたが、どうやら誤解だったらしい。むしろ、ネット環境では、自分の嗜好ばかりが追求できるため、強く制限された情報、さらにはいつも同じ仲間とばかりつるむことが可能になったそうだ。このことには逆に強い制約を感じる。
 その情勢を強く押し進めたのがSNSの普及で、制約がかけられたコミュニティが乱立する事態になってしまったとのこと。閉じられたコミュニティが膨大な数存在する社会だ。この閉じられたコミュニティでの評価が重要となりすぎると、アイスクリーム販売用の冷凍庫に寝転がるという暴挙に出てしまうことも十分考えうるそうだ。なぜなら、閉じられたコミュニティで楽しまれ、賞賛を受けることが重要なのだから。
 この固定された価値観を共有するコミュニティは、価値観が相違するほかのコミュニティを攻撃する傾向にあることにも注意が必要だろう。一方で異なるコミュニティを横断することができる人物もいる。
 多くの賛同を得るのは、当然のことながら後者の人材で、それは多くの人が望む姿ではないだろうか。それでも居心地のよいコミュニティの吸引力は凄まじいものがあるようだ。
 ネット空間の拡大は、実社会にも大きな影響を及ぼしている。例えば、インターネットが市民権を得る前、大衆は一方向の情報を享受することしかできなかった。その手段は様々で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といったコンテンツから共通の情報を獲得してきた。広く社会に共通の価値観が流布され、それに従うことに迷いがなければ案外過ごしやすい。それは「大きな物語」と例えられた。
 しかし、ネット社会の拡大は、個人主義という新たな価値観を拡散することになった。それは一見自由で過ごしやすそうに思えるが、実は責任を伴うものでもある。
 自己責任という言葉がよく表すように、社会全体の規範ではなく自分の価値観で物事を判断し活動する以上は、その責任も自分にあるということが突き付けられたのだ。
 ネット社会にどっぷりつかり、その便利さを享受してしまった今、四半世紀前の時代に戻ることなど考えられない。戻ったとしても、どうしていいかわからず戸惑うことだらけだろう。だからこそ、「大きな物語」で覆って進むべき道を照らしだしてくれたのかもしれない。そんな時代になることは、望めないし、多くの人は望んでいないはず。
 だからこそ、本書からインターネットの何たるかを、そしてネット社会の実際を汲み取ることが必要なのだろう。ネット社会に翻弄されず、制約されたコミュニティに捕らわれることなく、しっかりとネット社会を生き抜くためにも。







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