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評者◆伊達政保
何が復興オリンピックだ、聖火リレーだ――「もやい展2021東京」
No.3501 ・ 2021年06月26日




■東日本大震災、福島原発事故から10年。多くのメディアでの特集やイベントなどが取り組まれた中、一番興味を引いたのは「もやい展2021東京」(4月1日~4月8日、タワーホール船堀)だった。写真家の中筋純らが主宰するこの催しは2017年の練馬区立美術館、2019年の金沢21世紀美術館に続き3回目だという。うかつにも、今回までこうした催しがあることを知らなかった。船の結び方の「もやい」という言葉に共同作業の意味を込めて、絵画、彫刻、写真、映像、パフォーマンスが一体となり、東日本大震災・福島原発事故を後世に語り紡いでいこうとする試みなのだという。どうもいかがわしさを感じてしまう「絆」という言葉ではなく、「もやい」という言葉にうならされた。
 展示ばかりでなく、日毎に行われるパフォーマンスプログラムがすごかった。大熊ワタル、こぐれみわぞう等によるチンドン・クレズマーバンド「ジンタらムータ」、風煉ダンス朗読劇「まつろわぬ民2021」、磐城じゃんがら念仏、東北学の赤坂憲雄トーク、オペリータ「うたをさがして」、ピアノ(現代音楽)と能、3つのソロダンス、等々。これらは展示室内ステージでなんと無料なのだ。そして4月7日は有料で白崎映美&東北6県ろ~るショー!!のコンサートが大ホールで行われた。これではとても1日では済まない、3日も通ってしまったのだ。
 さて展示だ。入ると正面に大きな目と未来の文字の写真がある。果たして我々の目は開いているのかという問い掛けであり、「原子力明るい未来のエネルギー」という双葉町の今は無き看板からの写真なのだ。この展示のスタンスが明らかだ。右に目をやれば富岡町夜の森の桜並木のフェンスで仕切られた写真、左には同じ構図の絵画、会場には金原寿浩の同じ題材の絵画もあった。そしてウッキー富士原のフレコン・バックの造形、原発を髑髏表情に擬して並べた片平仁のCG。縦長の麻布に描かれた小林憲明の親子や家族の絵画、一つ一つは暖かい絵なのだが多数並べて展示されるとまるで遺影のように思えてくる。衝撃だったのは中筋純が定点観測のように撮った帰還困難区域である浪江町の商店街の年毎の写真、櫛の歯が欠けるように一軒ずつ更地となっていく。朗読劇に表現された、地域に長年積み重ねられた何気ない日常会話の喪失。これが福島における10年という現実なのだ。何が復興オリンピックだ、聖火リレーだ。
 東北6県ろ~るショー!!のコンサートは大盛況だったが、彼らの表現が当初の中央に対するまつろわぬ民の怒りから、まつろわぬ民として自らの再生を促すものとして聞こえてきたのはもやい展だからだろうか。







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