書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆秋竜山
喫茶店で眠る、の巻
No.3500 ・ 2021年06月19日




■今、東京といわず地方でも街中を歩いていて突然眠くなったらどーしましょうか。眠気にもいろいろあって、たえられない場合。そんな時は、かつては喫茶店に飛び込んだ。そこで、ひと眠りすることができた。今は喫茶店など、どこをさがしてもない。あんなに軒をならべてあった喫茶店が消えてしまったのには何かしら理由があるのだろうか。わからない。それでも、眠くなることは今ではおそいかかる。喫茶店がなくなり、若い人は喫茶店なるものを知らない。喫茶店で眠るということを知らないのである。当時、私は喫茶店は仕事場のようなものであった。つまり、マンガのアイデアを考えるためである。マンガのアイデアとは眠るというようなものであって、眠りがともない眠っている時間が大半をしめていた。そして、喫茶店は私のようなものを好まなかった。コーヒー一杯飲んだらさっさと出ていってほしい。それはわかる。私は、それでは喫茶店の意味がないと思う。テーブルに必ず「お茶」が出される。たのみもしないお茶である。お茶を出す意味は、「もう、いい加減に出ていってくれ」と、いうことだ。お茶代もとられないお茶が出たからといって、よろこんではいられない。その点はわかっているが、知らんぷりしていると、次のお茶が出る。そのときは、かくごしなくてはならないのである。その店を出る。そして、次の店へと行くのである。それが喫茶店のハシゴである。
 末木文美士『日本の思想をよむ』(角川ソフィア文庫、本体九六〇円)では、
 〈栄西「喫茶養生記」身体を癒し、生を養う仏教。茶の効能や製法を述べた日本最古の茶の本。ということである。〉〈天、万像を造るに、人を造るを貴しとなす。人、一期を保つに、命を守るを賢しとなす。其の一期を保つの源は、養生に在り、其の養生の術を示すに、五臓を案ず可し、五臓の中、心の臓を王とせむか。心の臓を建立するの方、茶を喫する是れ妙術なり。〉――〈天が万物を造った中で、人を造るのがもっとも貴い。人が一生を過ごすのに、生命を守るのが賢明である。一生を過ごす源は養生にある。養生の術を示すと、(心、肝、肺、脾、腎の)五臓を健全にすることである。五臓の中でも心臓が中心である。心臓を健康にするには、茶を飲むのがいちばんよい方法である。〉(本書より)
 どこの家庭でもお客さまには、まずお茶が出される。それが礼儀である。考えてみると、こんな便利なことはない。とにかく、お茶を出せばよいのだから。お茶を出されて文句をいう人はまずいないだろう。そして、朝起きて目覚めのお茶を飲む。うめぼしがそえられる。その、お茶で茶柱が立ったと大さわぎする。「今日は、なんとえんぎのよい日だ」とか、いう。わからないのは茶柱が立つということはどうしてえんぎがよいのだろうか。その茶柱をのみ込んでノドにささったとゲエゲエやったりする。それでも、えんぎがよいのだろうか。よろこぶべきものなんだろうか。喫茶店で「早く帰れ」とばかりに茶が出され、その茶に茶柱が立ったとしたら。私はそのような経験がなかったが、もし、あったら、店の人にいうだろう。「茶柱が立った。なんとえんぎがよいことでしょう」と。どういう店の反応があるだろうか。そんなことより、早く出てってくれ!! と、いう顔にはかわりないだろうか。わからない。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約