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評者◆秋竜山
蚊そのものが漫画である、の巻
No.3499 ・ 2021年06月12日




■新聞には全国紙と地方紙があり、他にも専門紙や業界紙など、相当な数の新聞が発行されている。そんな新聞に連載のような形で四コマ漫画がある。四コマ漫画といえば新聞漫画といってもよいくらいだ。新聞の四コマ漫画は漫画でも独特であり、季節感がともなう。私も新聞漫画を日刊で描いているが、今の季節ではもっとも多く描かれるのは「蚊」である。今年も「蚊」を沢山描いた。「蚊」に関しては、いくら描いてもアイデアがなくならないということである。
 復本一郎監修『俳句の鳥・虫図鑑――季語になる折々の鳥と虫204種』(成美堂出版、本体一五〇〇円)では、〈蚊の声、蚊の唸り、蚊柱、昼の蚊〉〈カ類(カ科)〉を、取り上げている。この蚊が人間の血を吸うごとに「ピシャッ」と叩かれる。叩かれるよりもすばやく逃げる。
 〈ハエ目カ科の昆虫は世界に三〇〇種、日本で一〇〇種ほどが知られる。日本では春から秋にかけて数回発生を繰り返す。活動する時間や場所は種によって異なり、家の中でふつうに見られるのはアカイエカで、屋外で多く見られるのはヒトスジシマカである。〉(本書より)
 人間の血液を吸うのだから、かなりゼイタクである。さぞ、うまかろう。夜間に吸血するのだから考えようによっては、なんとも色っぽくもある。
 〈蚊の声すにんどうの花の散るたびに―蕪村〉
 〈一つ二つから蚊柱となりにけり―一茶〉
 〈夜一夜蚊にくはれけり試験前―正岡子規〉
 〈叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな―夏目漱石〉
 〈手を洗ふにも昼の蚊のつきまとふ―高浜虚子〉
 〈蚊の声のひそかなるとき悔いにけり―中村草田男〉
 〈蚊が一つまっすぐ耳へ来つつあり―篠原梵〉
 〈僧若し頭に木槿から来た蚊―金子兜太〉
 どの句も漫画的である。そのまま描いたとしても漫画になってしまう。と、いうことは蚊そのものが漫画であるということだ。血を吸うと同時にピシャリとやられる。それよりも素早く逃げのびる。逃げた蚊にむかって、「うまく逃げおおせて、よかった」と、声をかけてあげたいくらいである。もちろん自分の血を吸われた時はそんなノンキなことはいってられないだろうけど。
 〈昔も今も日本の夏とは切っても切れない関係にある。庶民的な題材であり、江戸期以降に盛んに詠まれるようになった。〉(本書より)
 蚊取線香は、どこの家でもなじみ深いものである。もしかすると、蚊取線香をかけて蚊がやってくるのではないかと思いたくもなってくる。ぼうふらは蚊の幼虫である。これとて、ユーモラスな増えかたをする。夜になると蚊に変身して血を吸いに出かけるのだから、おたのしみは夜である!! と、いうような生き物のようだ。
 〈ぼうふりの水や長沙の裏長屋―蕪村〉
 〈孑孑の天上したり三ヶの月―一茶〉
 〈孑孑や松葉の沈む手水鉢―正岡子規〉(本書より)
 子供の頃、蚊帳にはいったのがなつかしい。







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