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評者◆凪一木
その98 全面戦争だ
No.3499 ・ 2021年06月12日




■いよいよ、この現場、もしくは会社を去る時期が来たようだ。
 人事担当者に苦情の手紙を出すことにした。自分の会社の人事に対してではない。派遣先の人事担当だ。
 下請け会社の人間が、派遣先の上司に当たる人間を、親会社のようでいて、それほどにつながりのない元請け会社に対して物申すのであるから、私自身の進退問題だけでなく、会社自体が、この現場および他現場も含めて関係悪化という事態にもなる。
 内容は、あの「八時半の男」についてである。昭和の時代に、当時は存在しなかったリリーフ投手という存在(八時半ごろに登場する)=巨人の宮田征典が、その称号を得たが、令和の八時半の男は、打たれて逆転され、先発の勝ちゲームを潰しているにもかかわらず、居直って再逆転勝利投手になろうとしているのである。
 パワハラ告訴状の書き方を示したいわけではなく、一例を示したい。私の場合であって、この後、どうなるかは分からない。以下は抜粋。
 〈派遣先責任者(株)Sビルサービス人事部長A様お世話になっております。派遣社員の凪一木と申します。Bビル「防災センター」一階に勤務しております。労働者派遣法に基づいて苦情の申し出をいたします。御社が派遣法に基づいての適切な処理をすること、認識いただけると助かります。求める内容「八時半の男により現場が混乱しているので改善を求めます」
 三月五日も八時半の男をどうにかしてくれと、警備の隊長から、清掃のチーフから、約二〇分にわたって要望されました。Sビルサービスの人間からも、「パワハラの噂は聞いている。関わり合いたくない」と。私の会社(T工業)の責任者だったボストン氏と連日喧嘩をして追い出し、人員が不足で応援に来ていたミニK氏もパワハラ行為の連続で、「この現場には二度と来ない」と言い残して去っていきました。この現場で最も信頼されていた同僚の樵さんも八時半が原因で辞めていきました。新しく入った設備の三島も、「八時半がいると思うと憂鬱で辞めたい」と。他現場に戻って「もう来る気はない」と言った設備の司馬遼太郎氏も、「病だから治らない」と。一〇月一二日=有無を言わせず怒鳴った件ほか二月二四日までの全一五項目(詳細は略)については時間を取って頂き、聴取のほどよろしくお願い致します。〉
 この文章が届くと、朝礼などで、八時半の男は、必ず言い返してくる。このときの対処が大事である。
 まずは、相手の話を一通り聞いて、そこでの質問や誘いには乗らない、答えない。そしてこう、言い放つ。
 〈第一点、しゃべり言葉のやり取りについてですが、これまでのあなたの言動から、人が話している途中で遮ったり、人の話に自分の言葉を被せてきたりするので、それはご勘弁ください。「言った、言わない」などの記録性という点で不十分であり、無駄なやり取りもあるので、録音をすればいいのかと言いますと、これも不可です。
 たとえば「はし」と言った場合、日本語には同音異字、同音異義語が多く、橋なのか、箸なのか、端なのか、ジッタリンジンのギタリストの苗字なのか、は判別できません。これをいちいち確認作業をしての、その上での再びのやり取りや手間などを考えると、録音も不十分です。ではカメラによる映像撮影が必須ということになりますが、角度や位置においても、また撮る人間がどちらの立場や人物に近いかによっても、撮り方が変わります。それに、しゃべりのやり取りでは、ヒトラーが演説を多用して人心を掴んでいったように、危険でまともでない思想であっても、その場の雰囲気や気分、および暴力装置などによって、推進されていった歴史があります。また、単純で深みの無い考え方の側の方が有利に働きます。それなりにまともな考え方を理解してもらおうとすると、一つの塊のようなものを相手に浸透させねばならず、どうしても難しい言語の多用なりその説明が必要で、多弁にならざるを得ない。どんなに早口でしゃべろうとも、時間短縮には限度があり、時間制限などをされると、これでは、話の本質にたどり着く前に終わってしまい、これは、双方にとって本意ではない。
 文章であれば、まず、話の途中で遮られることはない。言葉が被ることもない。「言った、言わない」という水掛け論も起こり得ない。「はし」と言った場合、字がそこに明瞭に示される。また、話しているときの威圧的な態度や酒焼けした血走った目なども見ることなく、影響されずに済む。その場だけで通用するような、危険でまともでない思想であっても、その後に論考ができる。難しい内容についての意味が分からなければ、おしゃべりの場合は中断するしかないが、文章なら、たとえ分からない言い回しや言葉があっても、そちらが自由に辞書などで調べていただければよい。〉
 以上の文言を、暗記したうえで言い返すか、この文章をコピーして、その場で読むのが良い。とにかく、相手のしゃべり言葉の威圧的なペースに持ち込ませないことが必要だ。パワハラ人間やサイコパスは、しゃべりが得意で文章がダメな点が特徴だ。こちらの身を守るためにも、相手のペースに乗らないことだ。下手をしたら生命、財産を簡単に奪われることを肝に銘じておいた方が良い。
 しかし前々回に書いた如く、八時半の男は、三月二九日の朝礼で、こう言ってきた。
 「既に分っていると思うが、四月一日から八時半になるのでよろしく」
 抜け駆けだ。問答無用の有無を言わさぬ形で、規定事項であるかのごとくに、ほとんど闇討ちで押し付けてくる。こんな姑息なやり方には、納得できない。
 その前の勤務日に、T工業のK部長から、いきなり紙を渡された。
 「ビルのオーナー会社から、八時半から九時半の間が、人が手薄になるので、夕方の時間を減らしてでも、入れてほしい、という要望が所長にあった」という。
 しかし、それなら、日勤だけズラして、引き継ぎは、これまで通り九時半で、「24勤」は、時間を動かす必要はないわけだ。理屈が通らない。また、記載の「休息時間」である。これが休憩時間ではなく、休息時間と書いてある。これでは、連続勤務となる。
 休憩時間は、労働基準法第三四条で、労働時間が六時間を超え、八時間以下の場合は少なくとも四五分、八時間を超える場合は、少なくとも一時間の休憩を与えなければならない、と定めている。なので、二四・五時間はもちろん九時間連続勤務も労働基準法違反となる。
 紙には、時間配分が書いていない。しかも書類の、一部には、OG部長になっていて、もう一部には、人事部長J氏と書いている。どこまでもいい加減だ。誰がこの文章の責任者かも書いていない。
 阿保か。(建築物管理)







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