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評者◆越田秀男
若松丈太郎ら13氏の震災・原発禍作品を紹介(「コールサック」)――暴力の本質を突く、冨岡悦子詩集『反暴力考』(「Tumbleweed」)
No.3498 ・ 2021年06月05日




■東日本大震災から10年、コールサック105号では、発行人の鈴木比佐雄さんを含む13氏の震災・原発禍作品を選抜・紹介。先頭は若松丈太郎の詩――《四万五千人の人びとが二時間のあいだに消えた》――チェルノブイリ視察旅行後の作品。詩中に東電福島原発の事故を予言していた! 大震災後の詩――《~イザナギがヨミから逃げ帰ってきたとき/追いすがる災厄をとどめた境界の神を/フナトノカミと名づけた/釜舟戸には~》――福島県南相馬市鹿島区、釜舟戸は海岸寄りの地名のひとつ。災厄は産土神をも飲み砕いた。
 『子供の目がみた「満州」――引揚げ船QO125号』(高橋敏男/舟182号)――引揚げ船は、米軍の、沖縄戦で戦車を運んだ使い古しの船。船室の蚕棚のような寝床にいる女は、途中の収容所で死児を抱えて離さず、夫にむしり取られてから一言も話さなくなった。高橋少年の同級生だった少女の水葬……ようやく日本の港へ……検疫……「統率が取れとらん」と業務を放棄する検疫官……。
 『死者たちの叫びを抱きしめ続ける――冨岡悦子詩集『反暴力考』小論』(水嶋きょうこ/Tumbleweed9号)――《ちぎられた カラスの尾羽が三本 下水溝の鉄網に 絡まっている~》《この空の どこかでたたかいがあり~致命の傷を 負わせたものは 墜ちるものをみとどける余裕もなく 生き延びる方へ~生き延びたものに 死骸はいつも不在だ》――冨岡悦子は“暴力”を詩的言語によって自己の内部に引き込み、《暴力とは 私が 私であることに由来する》と、その本質を突いた。
 『まつろわぬ者たち――石川淳の小説の世界』(田崎勝子/異土19号)――“服(順)わぬ”者とは、石川淳の小説の主人公達や石川自身のアナキスト達へのシンパシーを指す。石川は『佳人』で、自然主義文学作品を《小説まがいに人生の醜悪の上に薄い紙を敷いて、それを絵筆でなぞつて、あとは涼しい顔の昼寝》と腐した。放浪生活から脱却した雄叫びでもあった。戦後は無頼派に数えられたものの、制作意欲は最晩年まで衰えず、語り部となっていく様を田崎さんはダイナミックに追った。昭和時代を映す鏡。
 『「ジャム詩集」二冊』(定道明/青磁42号)――定さんはフランシス・ジャムの詩集を最近ようやく手にした。中野重治らが創刊した同人誌『驢馬』の誌名は、「この詩集から堀辰雄が取ってきたもの」と定さん。《柊の生垣沿へに歩いて行く/やさしい驢馬がわたしは好きだ~》(堀口大学・訳)――この詩は、後年堀が中野の詩『歌』を、「これ(注‥“赤ままの花”など)こそわれわれの人生の~最も本質的なものではないか」と評した言葉と重なる。堀はささやかなものにこそ価値の本源をみていた。
 『白狐』(西田宣子/季刊午前59号)――野の草花と仲良しの主人公は、その写生画で個展も。すると、地元紙から取材が。記者はなんと幼なじみの彼、23年ぶり再会。その後彼は、彼女に日本画の素養があることを聞きつけ、県展への出品を強力に勧める。彼女は彼との思い出深い、鎮守の森の祭、その象徴“白狐”をモチーフに挑戦。絵を完成するまでのアクチュアルな“工程”描写は秀逸。で、結末は? 野の草花への回帰!
 『スペイン大使館の森』(えひらかんじ/私人109号)――主人公が大使館設計監理業務を請け負い、立て替え完工するまでのドラマ。敷地内の鎮守の森を守りたい主人公は美人大使との意思疎通もできて、スペイン本国の意向や港区の再開発条例を乗り越えて無事完成、と思いきや、大使以下、館員スタッフ総入れ替え人事! で一波乱……。
 もう一つ『ブカレストのスキャット』(根場至)――三里塚闘争に加わっていた主人公は政治色が強くなり離脱。糊口をしのぐため、小さな貿易商社に入り、ブカレストで奮戦する。時はチャウシェスク独裁政権の只中、市民の陽気な振る舞いも挿入。“スキャット”とはテレビから流れでた由紀さおりの歌。
 『偽物』(上村ユタカ/民主文学667号)――大学入学、初めてのアパート一人暮らし、オンライン授業、コミュニケーションは画像と。隣は何をする人ぞ、婆さん? TVの音がウルサイ! 苦情を言いに――「私じゃないよ。私の偽物の仕業」、そんなバカな!? いやバカにできない。自分の偽物が現れて……婆さんから偽物を溶かす術を教わり偽物退治大作戦、自分も溶けてしまった。
 『今夜もお茶を』(土田真子/じゅん文学105号)――俳句仲間の仲良し+αで、料理上手な主人公の家に集まり食事会。皆、普段とは少し違う顔もみせて喜々哀楽のひととき。三密厳禁のこのごろ、こんなゆとり時間ができたらシアワセ、それを小説で味わう、作者の豊かな表現力で。その日も、眠れぬ夜は一人でお茶を――《お彼岸も近いから、夫が好きだったおはぎを作って、仏壇に》。
 二〇一八年設立の自由律俳句協会は、昨年11月30日付で機関紙『自由律の風』を創刊。自国第一主義に陥らぬよう「自由で開かれた束縛のない組織体であることを目指しています」。佐藤広隆会長《ふらり墓の父へ路の蛍草を一本――父が亡くなってから父のしていた自由律俳句を始めました~そして三十年~私にとって自由律俳句をすることは、父を探す旅でもあります。》
(「風の森」同人)







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