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評者◆小嵐九八郎
精力、根性、パワーはかなりの凄みだ――『水原紫苑の世界』(本体二八〇〇円、深夜叢書社)、水原紫苑著『百人一首 うたものがたり』(本体九〇〇円、講談社現代新書)
No.3498 ・ 2021年06月05日




■当方は歌人と自称しているが好い加減そのもの、短歌の注文も一昨年まで年間五、六十首、去年は零。でも、三十三年ぐらい前は『未来』という短歌結社に三年ぐらい入っていて、おととし亡くなった岡井隆を先生としていた。しかし、先生は宮廷歌人となり、俺はなお現役の活動家だったので、発覚したら“内部処刑”となりかねず慌てて、さようなら。
 そんな当方などの雨蛙みたいのと違って騏驎ほどの女性の歌人がいる。知っているとは思うけど、水原紫苑氏だ。短歌の世界では、俵万智氏、穂村弘氏の口語というか喋り言葉の人人がすぐに共有できる武器に対して、文語に拘り、読み手も覚悟しないと退治できない歌人の“雄”だ。中身も、塚本邦雄の明確に譬喩と分かるそれでなく、寺山修司の「わたくし」を粉飾しながらの虚構でもなく、「これから墜ちる」と宣告しながら八ヶ岳の天狗岳を滑降する、予めの虚構を前提とした歌歌を作る。
 その水原氏は、去年八月に歌集『如何なる花束にも無き花を』(本体2700円、本阿弥書店)を出して、「うへーい、ここまできたか」と思わせたら、今年三月に『水原紫苑の世界』(本体2800円、深夜叢書社)を出版して多面的な才を見せ、同じ月に『百人一首 うたものがたり』(本体900円、講談社現代新書)を出した。この精力、根性、パワーは、俺みたいなどうでもいい娯楽作家とは別で、かなりの凄みだ。
 歌集の『如何なる花束にも無き花を』のタイトルはマラルメの詩をちょっぴり変えたというが、なかなか。わからんちゃんのまま、いいなアと感じたのは《革命をうたはば野垂れ死にこそはあらまほしけれあはれ黄白》、そして《排泄は孤獨なるわざ逝く夏のピアノひそけく尿せりけり》。もっとあるけど。
 『水原紫苑の世界』。おーい、短編小説一作もある。水原氏の師の春日井建より、塚本邦雄の世界という気もするが、そして、カフカ的世界の既視感はあるが、もっと先へと行き、読後、俺も酔っておかしくなった。
 『百人一首 うたものがたり』。解って解らないようで、しかし、日本語の持つ五七五七七の黄金律の響きをよこす百首について、何しろウンチクが広く、深い。五つから十ぐらいの子を持つ父さん母さん、読まなきゃ。







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