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評者◆伊達政保
東アジア反日武装戦線のドキュメンタリー映画が韓国で作られ、日本で公開――キム・ミレ監督・プロデューサーの『狼をさがして』
No.3496 ・ 2021年05月22日




■なんと45年前に連続企業爆破事件を起した東アジア反日武装戦線のドキュメンタリー映画が韓国で作られ日本で公開された。『狼をさがして』キム・ミレ監督・プロデューサーである。
 1974年8月30日、東アジア反日武装戦線はそれまでの自国帝国主義打倒、権力奪取という革命思想や運動から、全く異なった次元の戦いを開始した。過去の侵略植民地支配を反省することもなく経済侵略、経済植民地化政策による経済発展を追及する日本帝国主義、日本企業、日本人総体に対して、反日という立場から企業爆破を行い、翌年5月に一斉逮捕されたのだ。
 監督は15年前、日本の日雇い労働者を描いた『ノガダ(土方)』の日本での自主上映中に彼らについての映画製作を求められ、支援者とも集まりを持ったが、力量不足との判断から映画の企画を諦めざるを得なかったという。その後二本のドキュメンタリーを製作、2014年セウォル号事件で国家の責任や権力、暴力性を考えさせられたことから、歴史学者藤井たけし氏の企画で資料を集め関係者の協力を得て、5年前から本格的に撮影を開始し、この映画が出来上がったのだ。
 映画は東アジア反日武装戦線を名乗った「狼」「大地の牙」「さそり」の各グループの形成過程を字幕での説明を加えながら淡々と映し出していく。現在では爆弾事件として以外その内実はほとんど忘れ去られ、ある意味では封印されてしまったこの事件を、事件を知らない今の人達に彼らが何を考え、何を変えようとしたのかを理解しとらえ直してもらおうとしている。そのためか、監督がプロダクション・ノートで言うように日本における「反日」と韓国における「反日」の意味の違い、加害者と被害者の立場からの「反日」の違いが、詳しくは表現されていないように思われた。オイラから言わせれば日本における「反日」とは、大東亜共栄圏の自己批判により現代日本帝国主義へ落とし前をつけることなのだ。
 この映画は獄中、獄外、支援者を丁寧にとらえることによって、東アジア反日武装戦線の持っていた内実を個々人の思いの中から浮かび上がらせている。また刑期を終え出獄した当事者が、結局は加害者となってしまった自分達を自覚し悩みながら、社会に対する働きかけを継続している姿を映し出す。日本の戦争責任や侵略行為を曖昧にするどころか、正当化しようとする動きが活発化する現在、この映画を多くの人に見てほしい。欲を言えば各グループの形成過程を、もう少し掘り下げてほしかった。「大地の牙」の逮捕時自殺した斉藤和クンが関わったベトナム反戦直接行動委員会など、そうした原点みたいなものだと思うからだ。







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