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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3494 ・ 2021年05月01日




田んぼをめぐるいのちのすべて
▼田んぼの四季――なぜ赤とんぼは人間に寄ってくるの?
▼宇根豊 作/小林敏也 絵 作者の宇根さんは、「田んぼの学校」などでつとに知られる方で、田んぼにまつわることなら何でも知っている、田んぼ博士です。そして小林敏也さんは「画本宮澤賢治」シリーズでおなじみの画家ですが、二人がタッグを組んで、田んぼという環境について絵解きをした、とても魅力的なシリーズ「うねゆたかの田んぼの絵本」(全五巻)が登場しました。
 本書はその第一巻で、田んぼの四季折々の様子や生き物たちの生態のことをまとめています。農業とは生きものを殺すこと、また、生きものたちがかえってくることという生態系の宇宙のような様子が、ここにはえがかれています。(12・15刊、21cm×25・7cm三六頁・本体二七〇〇円・農文協)

▼田んぼの文化――なぜ正月はやってくるの?
▼宇根豊 作/小林敏也 絵 同シリーズの第五巻は、米を作ることと食べること、いのちを食べ、いのちを育てることをめぐる文化のお話です。大切なことは、生きものにもいのちがあるのと同様に、農作業に使う道具や機械にも、とても大切ないのちが
あることです。宇根さんは、長く付き合ってきた農機具にやさしく語りかけています。
 一緒に生きているものすべてに、いのちを感じるという人間の感性と、田んぼをめぐるすべてが同じ生きものどうしであるという感覚の大切さが、この本から伝わってきます。小林さんの絵が、なつかしい田んぼの風景を蘇らせます。(3・15刊、21cm×25・7cm三六頁・本体二七〇〇円・農文協)


中世の古城を細密画で再現
▼輪切り図鑑クロスセクション ヨーロッパの古城
▼スティーブン・ビースティー 画/リチャード・プラット 文/赤尾秀子 訳
 中世ヨーロッパの古城はどのように建設され、戦時にどのように使われ、また平時にどのような暮らしが営まれていたのか。それを細密画によって構造的に伝える「輪切り図鑑」の一冊。ヨーロッパ訪問のおりに古城を訪れたくなる内容で、見ていてとても楽しい大判の絵本である。(12・30刊、30・8cm×25・8cm三二頁・本体二〇〇〇円・あすなろ書房)


道東の根室に響くいのちの歌
▼ねむろんろん
▼こしだミカ え/村中李衣 ぶん
 絵本の舞台は、北海道の東部、根室です。納沙布岬に立つと、沖には歯舞諸島の島影が遠望できる、さいはての地です。ここには北の国から、丹頂鶴や渡り鳥がやってきますし、アザラシの姿も眼にすることができます。花咲ガニやサンマの水揚げ風景は勇壮です。そんな根室の生き物や人間のくらしを描いた絵本です。ねむろんろん、というのは、根室にあふれる、いのちの歌の響きなのでしょう。(4・10刊、25cm×22cm三二頁・本体一五〇〇円・新日本出版社)


起き上がり小法師のように起き上がる希望
▼起き上がり小法師
▼Solae(ソラ) 作/いしいくみこ 絵
 作者のSolae  さんは、一一年前に交通事故の後遺症で高次脳機能障害に苦しんできました。周囲からはこの症状がなかなか理解されず、暗闇の世界のなかで、それでも希望を失わずに、独自の「読み聞かせ」のわざを編み出しました。この絵本は、そんな歩みを、起き上がり小法師に表現して伝えた一冊です。転んでもまた起き上がる、その勇気と希望に満ちた内容に、朗読CDがついています。(2・15刊、21cm×21cm三二頁・本体一五〇〇円・YOBEL,Inc.)


やさしくあたたかい終わりへの旅立ち
▼おじいちゃんのたびじたく
▼ソ・ヨン 文・絵/斎藤真理子 訳
 人間の人生とは、死への旅のようです。一日一日、私たちは死に向かっていまを生きています。老人とは、たくさんの過去を積み重ね、最後に近づく旅をする人なのかもしれません。
 この絵本の主人公であるおじいちゃんも、そんな旅に出るようです。ここに描かれているのは、誰にも訪れる旅立ちです。作者のソ・ヨンさんが描いたのは韓国のおじいちゃんですが、人生に国境などありません。そしておじいちゃんは、韓国でも日本でも、同じく人生の終わりへと越境していく旅人なのです。
 お迎えにきてくれたのは、ほわほわと白い、半透明のおきゃくさまです。おじいちゃんは旅支度をと、いろいろ荷造りをします。身支度をととのえ、おきゃくさまにも服を着せて、いっしょにソファーに座り、昔のことを思い出します。奥さんと出会い、子どもが生まれ、家族で暮らし、一人になった。走馬灯のように流れる思い出の絵が、なんとも眼にしみます。
 「おじいちゃん、かなしくない?」
 「かなしくないよ、うれしいよ。のこるみんなには すまないけどなあ」
 去っていくおじいちゃんの後ろ姿、その向こうには虹がかかっています。そして旅立ったあとに、花吹雪。春のわかれを描いた、やさしい一冊です。(2・28刊、24cm×20cm三六頁・本体一四〇〇円・小峰書店)


薄暗い朝の通学路、歌をうたおう
▼ひびけわたしのうたごえ 
▼カロライン・ウッドワード 文/ジェリー・モースタッド 絵/むらおか みえ 訳
 冬の早朝、まだ暗いなか、六歳の少女がスクールバスに乗るために家を出ます。雪に埋もれた家から、まだ夜道のように暗い坂を下り、森をぬけて歩くのですが、一人でとても不安です。
 よし、歌をうたおう。そう念じて声を出すと、風景がモノトーンからカラーへと、色彩豊かな表情へと変わっていくのです。
 子どもの頃、誰しもが経験する、広場の孤独のような孤独感と、歌が生み出す風景の変容感覚が、記憶の奥底から蘇ってくるようです。
 カナダの人気絵本作家モースタッドが、作家で灯台守のウッドワードの物語を、とてもみごとに表現しています。(2・15刊、28cm×24cm三六頁・本体一六〇〇円・福音館書店)







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