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評者◆伊達政保
コロナ禍の静かな時間の中で表現者として自らの立ち位置を模索葛藤する姿――友利栄太郎監督のドキュメンタリー映画『静かな時間』
No.3491 ・ 2021年04月10日




■昨年から現在までのコロナ禍を描いたドキュメント作品のうち、一本のドキュメンタリー映画を観ることが出来た。友利栄太郎監督『静かな時間』だ。監督は映像製作者である一方で、月蝕歌劇団に俳優としても出演している。そうした表現者という立場から、この映画が製作されたのだ。
 コロナ禍による緊急事態宣言により多くの小劇場やライブハウスは休業に追い込まれ、文化表現は停止せざるを得なくなった。それに伴って俳優、ミュージシャンは活動の場を失ったばかりか、収入をも失った。日本政府はそうした状況に対し国民一律10万円の一時給付金や休業補償等(ハードルは高く手続きも繁雑)を行ったが、文化そのものに対する姿勢は「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」とするドイツ政府の見解と、それに対する補償の足下にも及ばない。それどころか職業選択の自由による自己責任などという論調が出てくる始末だ。
 この映画はその中にあって、父親である作・演出家高取英亡きあと月蝕歌劇団の代表を引継ぐ女優・白永歩美、月蝕に出演した女優・慶徳優菜、女優・伊藤若菜の三人に焦点を当てる。白永はコロナ禍での劇団存続を模索し、昨年6月公演の中止を決定するも、再開出来るまでなんとか待機していくという(この撮影の後、12月に別演目での公演が再開された)。慶徳は女優として、演じることが自分の全てであり、そのために私はあるとしながらも、福島に残した祖母(唯一の肉親)を気に掛けつつ、それでも食べていかねばならないと時短営業のバーカウンターの中で働き続ける。伊藤は両親の求めもあり、コロナ禍の東京を離れ故郷の広島へ帰り、自分の生き方をもう一度見直すことになるが、12月の公演に向けて感染が収まったように見える東京へ戻ってくる。
 三者三様の立場で本音と建前がないまぜになりながらも、コロナ禍の静かな時間の中で表現者として自らの立ち位置を模索葛藤する姿が、映像の中に見事に切り取られている。友利監督の月蝕歌劇団、高取英への愛がそれを可能にしたのだ。
 オイラにとってこの映画で一番印象に残ったのは、緊急事態宣言下の渋谷、新宿、池袋などの歩行者が激減し人通りの無くなった街頭の風景である。カメラは風景を淡々と映し出していく。そうこれは風景論映画でもあるのだ。月蝕歌劇団と関係の深かった故・松田政男、足立正生のドキュメンタリー映画『略称・連続射殺魔』を思い出す。この風景がコロナ禍の日本を告発しているのだ。第二次緊急事態宣言下の現在、その矛盾はより深まっている。大阪の映画祭だけでなく、東京での公開を期待する。







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