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評者◆秋竜山
投げキスの確認、の巻
No.3490 ・ 2021年04月03日




■岡崎武志『古本で見る昭和の生活――ご家庭にあった本』(ちくま文庫、本体八四〇円)では、新聞の四コマ漫画、チック・ヤング「ブロンディ」のことが書かれている。昭和二十年代の朝日新聞の連載漫画だ。私の小さな村では、朝日新聞というより毎日新聞である。朝日新聞をとる家はまったくなく、全家庭で毎日新聞であった。私の家でも毎日新聞であった。朝日と毎日の違いは子供の私にとっては、朝日の「ブロンディ」と、毎日の「デンスケ」であった。だから私は新聞で朝刊による「ブロンディ」はまったく見ていない。そして、「デンスケ」の人気は日本中であった。つまりは新聞によって、朝刊で見れるか見れないかによって決定的であった。
 〈「ブロンディ」の連載が始まった四六年は、昭和に直せば二十一年。ついこのあいだ、アメリカとの戦争に負けたばかりだ。そこに登場したのがこのアメリカの中流生活を描いたマンガだった。〉(本書より)
 当時、子供の間でも、「アメリカってすごい国らしいよ」と、いいあったものだ。なにが、すごいかって、あらゆる面ですごいのであった。そして、この「ブロンディ」においてもである。
 〈会社から帰って来たダグウッドは、キッチンで夕食の支度をするブロンディのほっぺに「ただいま」とキスをする。ところが、ブロンディは気に入らない。「旦那さんがお勤めから帰ってきたとき奥さんのするキスの仕方を教えてあげましょうね」と言い、夫を押して濃厚なキスをする。四コマ目、床に倒れ込んだダグウッドは「結婚後十三年もたってもかい?」と妻に問う。これがオチ。帰宅して夫の手始めにすることが妻へのキス、というのもオドロキなら、妻がもっと強く濃厚なキスを仕返すというのも、戦後まもない日本男子にとってはショックな光景だろう。「サザエさん」を思い出してほしいが、マスオさんは帰宅してからサザエさんにキスしたりしない。もちろん、義理の父母と同居という条件もあるが、義父母がいなくなってもしないだろう。もちろん、絶対とは言い切れないが…。〉(本書より)
 もし、サザエさんとマスオさんが漫画の中でキスをしていたとしたら、読者の反応はどうだったであろうか。知ってみたい気もするが、当時であったら大さわぎとなるだろう。けど、その後、サザエさんとマスオさんのキス場面をみることはできなかったのである。「デンスケ」にも、キス場面はまったくなかった。もし、読者から、「キスさせてほしい」という投書が山のようにあったとしたら、させないわけにはいかないだろうと、キスする漫画が描かれるようになっていたか。みてみたいような、みたくないような。
 キスで面白いのは「投げキス」というのがある。これなら、どーなのか。キスをお互いに遠くから投げあおうということであるが、実際にできるものか。酔っぱらって、ふざけてやる場合もあったりするが、これも考えてみると勇気のいることでもある。この投げキスという行為も不思議なものであって、投げたキスを受けとめるわけだが、キスが相手まで飛んでいくというのだから信じがたいものであるとしても、実際に飛んでいき受けとめた相手が投げかえすわけだ。しかし受けとめるほうが、相手がキスを投げたのを確認できなかったら成立しないだろう。望遠鏡で確認できたとしても投げキスはやりあうことができるだろうか。







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