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評者◆秋竜山
化かしあいの世の中、の巻
No.3489 ・ 2021年03月27日




■「狸」や「狐」、その本物をみても、これが本当に狸であり狐なのか実感がうすい。ところが、マンガでみる狸や狐は、むしろこれこそが本物であるようにみえるのである。マンガの狸や狐がどうして本物以上にみえるのか。そして、本物が本物にみえないのか。マンガの描写力がすぐれているからなのか、そうでないのか、よくわからない。マンガに描かれた狸や狐は本物と見くらべると、さほど似ていないように見える。マンガの場合は本などでなじみが多いからだろうか。そして、マンガの狸や狐はパターン化された画であり、いわゆる記号に近いものであって、全部が右へならえの画であるわけだ。たとえば、時の総理大臣の似顔がそうである。それは、マンガ家が、暗黙の内に、今の総理大臣の似顔は「こーである」と、了承しあっているようでもある。だから皆、同じように総理大臣の似顔になってしまうのである。マンガの狸や狐と、同じことだ。
 岡崎武志『古本で見る昭和の生活――ご家庭にあった本』(ちくま文庫、本体八四〇円)で、
 〈二十一世紀になった現代日本で、まだ「狐に化かされる」という表現を使う人がいるだろうか。昔から、日本の民話や言い伝えで、狐や狸が人を化かすという話はよく出てくる。落語でも「七度狐」「王子の狐」「たぬ賽」「権兵衛狸」と、狐や狸と人間のかかわり合いをテーマにした噺は多い。これらはみな江戸から明治にかけて作られたのだろうが、少なくとも当時の人は、ありえない噺というより、ある種の実感をもってこれらの落語を聞いていたのではないか。(略)小林秀雄は明治三十五年の生まれ、少なくとも、明治生まれにとって、狐狸の類が人を化かすことは、有り得るという共通認識があったように思われる。(略)都会で狐や狸に化かされたという話は聞かなくなっていた。文明は発達し、なにごとも科学が明らかにし、無知や間違った伝承は正される。私が言いたいのは、それで幸わせになったのか、ということである。〉〈本書より〉
 昭和二十年代頃までは、田舎では狐や狸がよく人を化かしていた。化かされた話をよく聞いた。一番ビックリしたのは私の村でのこと。近所のオジサンが、狸に化かされた。そのオジサンが朝がたになってドロだらけになって帰宅した。ゆうべ一晩中、畑の真ん中を、しかも同じ所をグルグルと歩き続けたというのであった。一晩中歩いたのであろう。クタクタになって家に帰ってきた。家の者が畑へ見にいってみると、歩いた跡が円をえがくように足あととして残っていたのであった。狸に化かされたというのである。それに似た話がいくつかあった。それも狸に化かされるという話ばかりで、「一度でいいから狐に化かされてみたい」と、いって女房に叱られたということである。狐は女性に化けてヒトを化かすからである。そして、よくいわれたことは、狐や狸が化かす時は、化かされるヒトの一メートルはなれた所にいるということであった。子供の私たちは夜道を歩く時は、一メートルほどの長さの棒で自分のまわりを叩きながら歩けといわれた。だからといって一度でも狐や狸にあたったことはなかった。なぜ狐や狸がヒトを化かすのか。そして化かされて一番怖いのは人間に化かされるということだろう。化かしあいの世の中である。







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