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評者◆秋竜山
考える足、の巻
No.3487 ・ 2021年03月13日




■まだ世に出るのを夢みていた若い頃、同じ仲間と毎日、行きつけの喫茶店でコーヒー一杯で何時間もねばってマンガの話などをしてヒマな時間をつぶした。ある先輩マンガ家がいった。無名なマンガ好きが集まってマンガの話をしていても、ちっとも面白くない。その中に一人でもプロのマンガ家がいれば、話の内容もガラッとかわってくる。たしかに、プロのマンガ家の話は内容に深みがあった。当然、マンガのアイデアについてである。いかにアイデアを考えるかだ。つまり、考えるということは、頭を使うことである。頭をつかうということは、足をつかうということであると、いうことに話がおよんだ。足のおとろえは頭のおとろえにもなる。マンガのアイデアのおとろえ、ちっとも面白くないマンガということにつながっていくというのである。マンガを描くというのは九十九パーセントが足の力が描かせる。考えるということは脳ではなく足であるということであった。そして、みんな外へ出た。だからといって、面白いマンガが描けるようになったかというと、そんな単純なことではなかったのである。
 松浦弥太郎『考え方のコツ』(朝日文庫、本体五八〇円)では、
 〈アイデアを出すこと、考えることは、そもそも素直な自分と向き合うことですから、照れくさいことです。(略)白い紙に向かって一人、真剣になっている自分も、無様に感じられる。パソコンに向かってもキーボードを叩いているのは、なぜかさまになるのに、机に座って鉛筆で意味不明の言葉を書き続けているのは滑稽。そんな単純な話かもしれません。だからこそ大切だと思うのです。真剣に考えるという営みに、決して照れないということが。思考の断片は、人に見せるものではありません。アイデアを出す試行錯誤は、大勢の人々に対して、ライブ中継するものでもありません。(略)「こんな馬鹿げたアイデアは、みんなに笑われる」「突拍子もないじゃないか」「もっとそれらしい案にまとめるべきではないだろうか」こうした雑念に負けて、考えられなくなってしまうのです。〉(本書より)
 たしかに、マンガのアイデアはどのようにしたら浮かぶのかというと、簡単な答えです。それは、机にしがみついているということだ。机からはなれたら、それまでである。何がなんでも必死になって机の上の白い紙に向かっていて、何が起ころうとその場をはなれてはいけないということである。それがコツであり考えるということである。ゆうべは全然寝ないで、「このマンガのアイデアをしぼり出しました」と、そのマンガ作品について語ったところで、それが何だということになる。考えたことをみじんもみせず、サラリと仕上げた作品のようにみせるということであるだろう。もちろん、その作品が面白いものであるということだ。そんなことを若い頃、いい合ったものであった。ゆうべは徹夜で眠ってないで真っ赤な眼をさせながら、サラッと描きあげたようにみせるということ。面白いものをつくり出すものは天才である。あらゆる面白いものである。そんな中でマンガ家も考えることにたえられるということだ。そんな天才マンガ家も十年とか二十年とかに一人あらわれてくれれば、しめたものとされている。考える足をもつということか。







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