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評者◆添田馨
現代権力論――病原ウイルスとしての「アベ政治」⑥
No.3487 ・ 2021年03月13日




■「クレタ人はみんな嘘つきだ」とあるクレタ人が言ったそうだ。だが、そういう彼もクレタ人なのだから、嘘つきの仲間であり、彼の言ったことはみんな嘘だ。で結局、クレタ人はみんな嘘つきではないことになる……?
 「アベ政治」なるものが始まってから、これに類する不毛なやり取りが、依然として国会などで猛威を振るっている。スリカエ論法やゴハン論法はすでに朝飯前。いやしくも前総理大臣みずからが率先して嘘の答弁を広めてきたため、それをまねて国会議員や官僚たちも公の場で平然と嘘を並べたてるようになった。それも、すぐばれるような姑息な嘘を、である。
 その後遺症はいまもまだ続いている。特に最近は、なにかと理由をくっつけて「答弁を差し控えさせていただきます」という決まり文句が多く聞かれるようになった。嘘はかならずばれるし、ばれたら処罰されたり謝罪しなくてはならぬので、嘘をつかぬかわりに嘘を「差し控える」という意味だと、私などは理解する。
 だが、これとても万能薬ではない。「差し控えている」あいだに真実の側の証拠はどんどん積み上がっていくから、嘘つき議員や嘘つき官僚もいつかは白旗を挙げざるを得なくなる。だが、それにしても何故これほどまで嘘が蔓延する世の中になったのだろう。
 嘘をいい張ったほうがメリットになる、という算段がまちがいなく働いているからだ。その悪しき前例をつくったのも前総理である。これだけ過去の答弁内容のほころびが露わになり、虚偽のうごかぬ証拠があがっても、本人は刑事訴追されることもなく平穏な議員生活を送っていられる。だったら、それを見習いたくなる人間も出てこようというものだ。
 だが、クレタ人のパラドックスを打ち崩すのはじつは難しくない。いっさい信用しないことである。その言葉を誰もが信用しなくなれば、そもそもの前提を失って、この嘘つきクレタ人は消滅する。オリンピックの誘致をはじめ、嘘を嘘で塗りかためた「アベ政治」も同じだ。(つづく)







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