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評者◆伊達政保
平等のための陰謀の詳細が明らかに――フィリップ・ブォナローティ著『平等をめざす、バブーフの陰謀』(田中正人訳、法政大学出版局・本体八二〇〇円)
No.3484 ・ 2021年02月20日




■昨年コロナ禍の中、一番興味を引いたのはようやく翻訳出版された『平等をめざす、バブーフの陰謀』フィリップ・ブォナローティ著・田中正人訳(法政大学出版局)だった。これまで柴田三千雄著『バブーフの陰謀』(岩波書店)、平岡昇著『平等に憑かれた人々‐‐バブーフとその仲間たち』(岩波新書)などで、一部分しか知られなかった原本が完訳されたのだ。本文と「陰謀」裁判の証拠書類と補足資料に加え、著者による原注と訳者による詳細な訳注及び解題、人命注解、関連略年表でなんと840ページ以上もある。本書によりフランス革命後期のテルミドール反動後、1796年に起こった「バブーフの陰謀(平等のための陰謀)」の詳細が明らかとなった。
 バブーフやその同志ブォナローティなどいわゆるバブーフ派は、フランス革命における「平等主義」思想を「財産の共同体」=共産主義思想に発展させた共産主義の始祖として扱われてきた。しかし柴田氏や平岡氏などの研究を踏まえ本書を読むと共産主義革命論の先達であったことがよく分かるのだ。確かに本書の財産・労働共同体と人民主権による平等者の共和国は、時代的制約はあるが共産主義思想の萌芽であることは間違いない。しかし現在の歴史の垢にまみれた共産主義思想が失った精神をそこに見ることが出来る。
 さてオイラにとって本書の眼目は秘密総裁政府の設置とその組織、蜂起に向けての情勢判断と戦術会議にある。ありゃ! 50年以上前に運動の中で論議されたと同じことが225年前に細部に至るまで論議されていたのだ。そういやトロツキー『ロシア革命史』でも同じような論議がなされてたっけ。先述の柴田氏の著書も60年安保闘争後の68年に出版されているが、1968年の激動への予感があったのかもしれない。まさに「秘密結社」による「革命独裁」の革命論は本書から始まったと言っていいだろう。
 「陰謀」発覚後、バブーフは死刑となり、ブォナローティは流刑となるもイタリアのカルボナリ革命に参画。1828年本書出版、30年7月革命に影響を与え、フランスに渡りブランキらと接触。ブランキは「秘密結社」による大衆蜂起と「プロレタリア独裁」による革命論を確立、48年革命そして71年パリ・コミューンに至る。本紙の書評で石塚正英氏(懐しき『叛徒と革命‐‐ブランキ・ヴァイトリンク・ノート』の著者)は、ここからマルクス→レーニンの「一党独裁的コミュニズム」とヴァイトリンク→バクーニンの「集団独裁的アナキズム」の二つの系譜に分かれるとした。全く同感。現在の格差社会と分解された労働者の現状を見る時、『陰謀』からブランキを再検討するべきだろう。







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