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評者◆秋竜山
本物の無人島と、漫画の無人島、の巻
No.3482 ・ 2021年02月06日




■「漫画を見ると馬鹿になる」と、いった時代があったという。正確にいうと、「漫画ばかり見ていると馬鹿になる」のだと思う。もっと正確にいうと、「勉強もしないで漫画ばかり見ていると馬鹿になる」と、いうことだ。私が子供の頃の話のようだ。ところが、子供であった私は両親に、特に母親などに、そんなことをいわれたことは一度もなかった。そういうことがあったと、知ったのはそういう時代が過ぎた頃である。私の生まれ育ったのは田舎であったせいであったかもしれない。都会の子供たちは、そういわれる毎日であったかもしれない。いずれにせよ私は、そしてまわりの子供たちは、漫画ばかり見るな、とか勉強をしろ、とかいわれた経験はなかったのではないだろうか。昭和三十年前後であった。母親たちが、漫画を悪書とみなして、漫画は子供たちにはよくないといい始めたのは、ちょうど第一次漫画黄金時代ともいわれ、当時は児童漫画といい(子供漫画ではなかった)、児童漫画は大量に刊行された。まだ劇画なるものがなく、その後、劇画が誕生していった。私は確かに漫画ばかり見ていた子供であった。そして、勉強などした記憶が今でもない。学校でも、今から思うとひどいものであり、勉強のために学校があるとは思えなかったし、家でも勉強などしたこともなかった。何をしていたかと思うと、何もしなかったわけでもなく、「畑でもいって、草(雑草)むしりでもしろ」と、いうのが父親の口ぐせでもあった。母親が病弱だったので他の家庭とは異なっていた。今、考えてみて、あの当時、漫画など見ないで勉強ばかりしていたらどうなっていたかと思ってみても、利口な人間になっていたとは思えないし、馬鹿になっていたとも思えない。
 丹羽宇一郎『死ぬほど読書』(幻冬舎新書、本体七八〇円)で、
 〈漫画も若い頃は、けっこう読んでいました。会社に入って独身寮にいる頃は、白土三平の人気漫画「カムイ伝」が連載されていた漫画雑誌「ガロ」を定期購読して、通勤で使う中央線のなかで読んだりしていました。いつだったか、電車のなかで「ガロ」を読んでいたら、年配の男性に「最近の若いのは漫画ばかり読んで…」といわれ、なんでそんなことをいわれなくてはいけないんだと思ったこともあります。漫画はどんなものでもテーマにできるから、社会のことや人間のことがいろいろ学べます。〉(本書より)
 大学生が漫画を見ているといわれた時代もあった。私はそのことについて何とも思わなかった。見たかったら見ればいいのではないかという程度の気持であった。
 〈以前あるインタビューで、「無人島に本を3冊持っていくとしたら、どんな本を持っていきますか?」という質問を受けたことがあります。しかし、その質問は私にとって答えようのないものでした。なぜならそんなところで暮らすとなったら、生きるためにやらなくてはいけないことがおそらく山ほどあるでしょうから、本を読むような時間はないと思ったのです。〉(本書より)
 確かにその通りだと思う。本どころではないだろう。私は、無人島漫画シリーズとしてかなりの無人島漫画を描いている。そこで思うことは無人島には本物の無人島と、漫画の無人島があるということだ。漫画の無人島であったらタタミ一枚ほどの島にヤシの木一本の絶海の孤島。なにもすることがない。食べる心配もない。本でも読むか、となる。読むか読まないかも自由。やっぱり漫画本か。







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