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評者◆小嵐九八郎
“男的要素”の批判を含めて――藤野裕子著『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』(本体八二〇円、中公新書)
No.3478 ・ 2021年01月09日




■「イデオロギー」は虚偽の体系と学生時代に先輩活動家に教わったが本当か。「思想」と言うと恥ずかしいのであるけれど「民衆」という言葉に、当方のイデオロギーとか思想がなお騒ぐ。ま、民衆への思い入れであろう。
 というわけで、全国紙の複数が取り上げていることもあり、『民衆暴力――一揆・暴動・虐殺の日本近代』(藤野裕子著、本体820円、中公新書)を読んだ。「民衆暴力」というタイトルだと、文学的には「粗野で無知な人民大衆の、残酷にして野蛮で無法な行為」の気分に満ちている気がするけれど、そうではなく実にきっちりと事実を踏み、時に学者的な分析を越えて情すらあると映る中身である。藤野裕子氏は、東京女子大の現代教養学部の准教授だ。
 初めから、俺の不勉強を知らされた明治維新後の「新政府反対一揆」についてだ。地租改正や細かい生活様式の規制、外国人に対する“異人”感覚による排外、徴兵令への恐怖などを背景にしたり混ぜたりして「賤民廃止令」への人人の反発が凄まじい限り。「女性たちの背中に藁束を縛り付け、火を付けて焼き殺したともいわれる」(『近代部落史資料集成 2』から著者は引用している)ほどひどく、極限的差別行為を明らかにしている。
 当方のうんと好きな「秩父事件」については俺もかなり勉強したけれど、そして農民の借金暮らしに博徒、つまりヤクザが先導役になって蜂起したのは知っているが、藤野裕子氏は「親分肌と結集力、そして義理人情を重んじる気質などが、民衆の蜂起に欠かせない要素であった」と記すと、つまり、この思いは“男的要素”の批判を含めていて、うへーいと考え込む。俺達も、一九六〇年代半ばから一九七〇年にかけて、デモの前日は鶴田浩二か高倉健の任侠映画を見て発奮したし、仲間達とは義兄弟の契りをすると意気がっていた。今なお全て否定はしないけれど、“女の目線”を欠いていた。若者よ、参考にしてくれ。
 「関東大震災時の朝鮮人虐殺」は、改めて、ナショナリズムの怖さだけでなく事実の余りのひどさにほとほと不勉強を知らされた。
 著者には「全共闘史」の“輝き”と“悲惨”についても記して欲しいもの。そろそろ学問の課題にしても良い時代だ。若者に役立つ。否、現役の人にも、尾を引きずっている人にも、自らを知るチャンスとなる。







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