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評者◆秋竜山
出るはよいよい、帰りは……、の巻
No.3476 ・ 2020年12月19日




■七、八人もはいれば、カウンターの椅子がいっぱいになるというような飲み屋。今と違って、コロナがどうだこうだといっていなかった頃であるから、肩寄せあい。マスクなど必要なく、相手にツバを飛ばしながら酒をのむという、なつかしくもある、あの頃。二人の男。たわいない話から「なんだ」「なにが、なんだ」「だから、なんだ」と、いわゆるのんベエの口ゲンカに発展していった。〈しり〉と〈けつ〉についての、いい争いである。どっちも同じことであるが、〈しりが軽い〉、〈しりが重い〉とでは意味合いが違ってくるといって自分の主張をとおそうとする。はげしい言い争いとなり、一人が、怒って,外に出てしまった。もう一人は残されて椅子に座っている。その内に帰ってくると思ったら、行ったきりであった。そばで飲んでいた私は、考えた。この場合、怒って一人で外へ飛び出すべきか、それとも、二人一緒に「ヤイ!! 外へ出ろ!」と、やるべきか。そして、二人そろって外へ出るべきか。一人の場合だと、引きかえすことはできないこともない。後はしらん!! と、なるべきだろう。ところが、二人で一緒に外へ飛び出た場合、二人とも店へもどらないということはないだろう。二人ともバツの悪い顔をさせて店内へ引きかえすことになる。もちろん、二人共店内へ帰ってきたのであった。私は、考えた。このような場合は、怒っても、とっさに一人で出る場合ではないということだ。一人で出て一人で帰るというバツの悪さである。もし、私にこれと同じようなことがあったら、一人はさけよう。二人だ。と、心にちかったのであった。そんなこともなかったけれど。
 加藤俊徳『脳が知っている、怒らないコツ』(かんき出版、本体一三〇〇円)では、
 〈人は、相手が自分と同等のレベルだと思うと、自分の基準を適用できると思い込みがちです。そのため、「自分にわかることは、わかって当然」「自分にできることは、できて当然」と考えてしまう傾向があります。とはいえ、自分の基準を相手にも適用できるというのは、そもそも単なる思い込みなので、相手からすれば「そんな勝手なことを言われても…できないものは、できないんだけど」ということになります。〉〈相手のレベルより極端に低すぎると感じる場合や、逆に高すぎると感じる場合は、こうしたことは起こりません。〉(本書より)
 一人で店内を飛び出す場合と、二人の場合とでは、まったく違ったことになるだろう。このような場面は、よくマンガなどにあります。店に帰ってくるのがちょっと遅かったりすると、店の中からソッとのぞいてみる。二人は言葉もなくお互いの肩を押しあっているとか。
 〈怒りを感じて、脳全体に血液がガーッと上がってしまうと、30分から1時間は通常の状態に戻りません。〉(本書より)
 さあ、困ったことだ。冬の寒い時など、寒さの中で脳が通常の状態に戻るまで寒さにたえなければならない。寒い分だけ脳をひやせば、よいことになるかもしれないが、二人一緒にひえてくれればよいが、一人だけ先にひえて、もう一人はカッカとしている状態ではどうすることもできない。そんな時、店内にいる人達というのは、薄情なものであって、知らんぷりしているものである。そして、そんなことがあったことなんか、忘れてしまうということだ。







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