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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3474 ・ 2020年12月05日




内なる町に棲む動物たちの不思議
▼内なる町から来た話 ▼ショーン・タン 著/岸本佐知子 訳
 オーストラリアの絵本作家ショーン・タンは、原作の『ロスト・シング』がアカデミー賞短編アニメーション部門を受賞するなど、世界的に活躍する作家です。多くの作品が邦訳されており、日本でもファンが多いです。本書はそんな彼の新作で、既刊の『遠い町から来た話』の姉妹編をなす絵本です。絵本といってもとても文章量が多くて、奥の深い話が次々と展開していきます。
 巻頭には、アリス・ウォーカーの「この世の動物たちは、誰かのために存在しているのではない」というエピグラフが掲げられています。この言葉が、物語の導きになるかのようです。『遠い町から来た話』には、町外れに住んでいた水牛や、異次元から来た交換留学生、そして誰にも愛されなかった物からペットを手作りするお話などがありました。遠くや別の世界、見向きもされなかった遠い物が、こちらに近づいてくる感じです。それが『内なる町から来た話』では、町のなかで人間の思惑など関係なく生きている動物たちのお話へと広がります。
 たとえば、ビルの八七階に住んでいるワニのこと。人間たちは、そんな高いところにいるのは自然に反する、異常で残酷で不気味だ、自然に返してやるべきだ等と議論しています。けれども、人間がビルを建てるずっと前、町がもともと湿地だった頃からワニはずっと棲んでいたわけだし、ワニにとっては下界の町なんて一時の人工物、ビルもいずれは消え去る「ただの待合室にすぎない」と作者はいいます。
 こんなふうに、合わせて二五の物語がくりひろげられます。町に棲む動物たちの存在感に触発されて、読者は内なる町の世界のなかへと引き込まれていきます。そして、自分が動物の目から、外の人間たちを見ていることに気づくのかもしれません。(8・30刊、B5変型判二二四頁・本体二九〇〇円・河出書房新社)
 
 
天の川のさいはて 惑星Oにある木
▼まほうの木 ▼アンドレイ・ウサチョフ 作/イーゴリ・オレイニコフ 絵/藤原潤子 文
 「児童書のノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞をはじめ、サムイル・マルシャーク賞やコルネイ・チュコフスキー賞などを受賞したロシアの児童文学作家、アンドレイ・ウサチョフは、詩人や劇作家としても知られています。ロシアではとてもよく知られた作家ですが、絵本『まほうの木』は、日本で初めて邦訳刊行されたウサチョフ作品の一冊です。
 おはなしの舞台は、天の川のさいはてにある「惑星O」です。この惑星では、木の枝に本がなり、魚が空をすいすい飛びまわっています。お花が朝には朝の歌を、昼には昼の、夜には夜の歌を歌うという、とてもふしぎな惑星なのです。
 そしてこの惑星には、なんでも願いをかなえてくれる、まほうの木があります。みんなの願いをかなえてくれる木です。たとえば、まほう使いがもつ杖は、実はこの木から作られているそうですよ。だからお話は、みんなの願いがかなうぶん、宇宙のように無限に広がっていきます。そのなかから、ほんの少しだけを紹介したのが、この絵本ということになります。
 まほうの木をめぐって、ペンギン、アザラシ、タイムマシンなど、一七のお話がくりひろげられます。さあ、本のとびらを開いて、ウサチョフの物語世界に、どうぞお入りください。(11・1刊、A4判四〇頁・本体一八〇〇円・東洋書店新社・発行/垣内出版・発売)
 
 
片付け大作戦が絵本になりました
▼はなちゃんとぴかりん ピカピカだいさくせん! ▼井田典子 作/松本春野 絵
 整理収納アドバイザーでお家の片付けのプロ、井田典子さんが、若いママとパパ向けのお話をつくりました。絵を担当したのは、絵本作家の松本春野さん。小学生のはなちゃんの机の片付け物語がはじまります。
 たしかに小学生の机はカオスですね。どうやったら自分で整理整頓する習慣が身につくのか、頭を悩ませるママとパパはとても多いはずです。いちど片付けても、また混沌にかえってしまいます。整理整頓と混沌との泥仕合が、小学生との日々の生活ですね。え? そんな子どもばかりじゃないって? もちろん個人差はあるでしょうが(笑)。
 お話の最後には、机とランドセルの“片付け大作戦”があって、とても役立ちます。小学生のお子さんをもつ家族には、救いの絵本です。(5・5刊、A4変型判三二頁・本体一三〇〇円・婦人之友社)


ことばたんていに挑戦状が!
▼ことばたんてい かくされたおたから ▼平田昌広 作/平田景 絵
 絵本作家の平田夫妻の「ことばたんてい」シリーズの最新刊です。お話は、大富豪の家から宝石が盗まれた現場に残されていた、“カクレンボーイ”からの挑戦状からはじまります。そこには、「お宝のありかを知りたかったら、ことばたんていを呼べ」と書かれていたのです。
 さて、はたしてことばたんていは、カクレンボーイがしかけた謎を解きあかし、事件を解決して、お宝をとりもどすことができるのか――。わくわくする答えは、絵本が教えてくれます。(10・15刊、A4変型判二四頁・本体一五〇〇円・新日本出版社)
 
 
みんながそれぞれ革命を起こそう
▼世界を変えるための50の小さな革命 ▼ピエルドメニコ・バッカラリオ/フェデリーコ・タッディア 著/アントンジョナータ・フェッラーリ 絵/上田壮一 日本版監修/有北雅彦 訳
 革命という言葉は、わかったようでいて具体的にイメージしにくく、説明のむずかしいものの一つですね。二〇世紀の革命の経験もあって、今世紀にはあまり使われなくなりました。この本は、そんな革命についてのルールを解き明かした、とても興味津々の内容に満ちています。どんな革命を起こしたいのか、そしてどんな覚悟がいるのか。そんな導入から始まります。
 「ほかの人と違うことを、ちがうやり方でやる。それが、小さな革命を起こすということだ」。
 これには大きくうなずかざるをえません。みんなが、ぞれぞれ、この反逆を実践すれば、革命は起きることを歴史が証明しているからです。妨害や邪魔も入るでしょう。でも、実行あるのみ。身を守るのはたった一つの武器、すなわち、心に秘めた強い信念だと著者はいいます。
 とても大事なのは、本書に挙げられた革命家の五つの特性です。慣習に屈服しない、エコロジーを意識して地球を守る、他人を助け、学び、耳を傾ける、欲張らない、デマや誤情報に惑わされず、好奇心をもって探求し理解すること。革命という言葉を意識しなくとも、これはインディペンデントに生きることの基本となる特性ですね。
 こうして、みんながそれぞれの革命を成し遂げることへと、本書はいざなっていきます。どれひとつとして同じもののない自分の革命をたしかめるノートとして、最大限に有効活用できる一冊です。(6・30刊、四六変型判一九二頁・本体一六〇〇円・太郎次郎社エディタス)
 
 
アイルランドからのクリスマス物語
▼クリスマスの小屋――アイルランドの妖精のおはなし ▼ルース・ソーヤー 再話/ 上條由美子 訳/岸野衣里子  画
 アイルランドから、幻想的な伝説のお話が届きました。妖精たちがクリスマスに願いをかなえる美しいお話です。
 流れ者の娘オーナには、つらい暮らしのなかでも、いつか自分の小屋を持つという夢がありました。老境にさしかかり、妖精たちが作った小屋を贈られたオーナは、毎年クリスマスになると世界中の飢えた人たちを小屋に招き、ごちそうをしました。それが今日まで続くという、いまこそ読むべきお話です。(10・15刊、A5変型判六四頁・本体一五〇〇円・福音館書店)







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