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評者◆伊達政保
まさに現在における暴力論の復権――藤野裕子著『民衆暴力――一揆・暴動・虐殺の日本近代』(中公新書・本体八二〇円)
No.3473 ・ 2020年11月28日




■国家は暴力を独占する。よって国家を暴力装置と言うのは正しい。しかしそれに対するこちら側の暴力とはどうであったのか。そして今後それはどうあるべきなのかを考察するために絶好の本が出た。といっても政治哲学や政治論文ではない。これまでの多くの歴史研究を元にまとめ上げられた、藤野裕子著『民衆暴力――一揆・暴動・虐殺の日本近代』(中公新書)だ。
 著者は冒頭のはしがきで酒井隆史著『暴力の哲学』(河出文庫)を引き、「暴力はいけない」という感覚が、犯罪への厳罰化要求や対外抑止攻撃容認などの、国家暴力に対する無感覚を生み出しているとする。また、デモとテロ(暴力)を混同する傾向は強まり、弾圧を正当化できてしまうという。おや同じようなことを、先日行われた「表現の不自由展・その後」のシンポジュウムで嶋田美子(アーティスト/美術史家)の報告も触れていた。オイラから言わせりゃ、現在においては行動や表現も含め、お上(国家)にたて突くことが暴力であり、「暴力はいけない」はお上にたて突いてはいけないということになっちまっているのだ。
 これに対し著者は過去の民衆暴力の容態を直視することによって、暴力に対する見方・考え方を鍛え、現代の感覚を見つめ直す機会が得られるはずだという。また民衆暴力は対国家の権力関係だけではなく、被差別者にも向けられる。歴史修正主義に流されないためにも、そのことを直視するべきだとしている。学者としてぎりぎりの表現で、読者にそれ以上の理解と洞察を求めているように思う。それはまさに現在における暴力論の復権である。
 さて本書では近代の四つの事件が取り上げられている。明治初頭の新政府反対一揆。幕末の世直し要求・解放願望が、国家の求める義務教育、徴兵制、賤民廃止令による生活の変化と食い違い、被差別部落への襲撃も伴った。自由民権運動期に起こった秩父事件。農村一揆とユートピア願望。日露戦争講和時に起こった都市暴動の日比谷焼き打ち事件。講和反対というナショナリズムだけではなく、労働者暴動という19世紀パリの民衆蜂起に似通う点も認められる。関東大震災時の朝鮮人虐殺。国家権力の主導があるにしても、民衆の被植民者反乱妄想の恐怖が虐殺を引き起こした。
 国家の暴力はフランツ・ファノン流に言えば暴力、秩序(抑圧)、戦争とエスカレートする。民衆側も暴力、暴動、革命と成長する。暴力の反対概念は非暴力ではない。この12月沖縄コザ暴動から50年。反米暴動の主体は復帰運動から裏切り者と言われスト破りを行ってきた米兵相手の風俗業者やヤクザだった。民衆暴力はそういう点に凝縮する。







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