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評者◆伊達政保
語り残しておかねばならないとの熱意――菅孝行氏の公開連続講座『20世紀演劇の精神史』
No.3461 ・ 2020年08月29日




■天皇制の評論家として知られる菅孝行氏。オイラが知ったのは『ブルースをうたえ』『はんらん狂騒曲』などの劇作家で、劇団「不連続線」の主宰者だった。そのころ菅氏は平岡正明氏の友人だった関係で、旗揚げ公演『にっぽん水滸伝』を始め劇団解散まで大概の公演を観てきた。またその間『騒乱のフォークロア』(大和書房)、『解体する演劇』(アディン書房)などを刊行する一方で、「反白書」などに天皇論ノートを発表し始め、それが現在の天皇制論に繋がっている。
 その菅孝行氏が『20世紀演劇の精神史』と題し、演劇の近現代を検証するとして全27回の公開連続講座を開始したのだ。毎月第一月曜日開講でなんと二年以上の長丁場。坪内逍遥、小山内薫、大逆事件からプロレタリア演劇、千田是也、戦時下演劇、戦後演劇、60年安保から新しい演劇(アングラ)、そして80年代演劇から現在に至るまで全面展開の予定だ。やはり高齢となった今、語り残しておかねばならないとの氏の熱意が伝わってくる。主催は日蓮宗僧侶の上杉清文氏らによる福神研究所。上杉氏は「発見の会」「天象儀館」などのアングラ劇団の劇作家としても知られている。
 さて、第一回は全体の展望として二十世紀論から始まり、ホブズボーム『極端な世紀‐‐短い20世紀』によって戦争と革命の世紀であり、合理主義と反合理主義の反復、アバンギャルドからリアリズムそしてポスト・モダニズムの流れから説き起こす。そしてなるほどとうならせたのは氏による演劇の四つの範疇である。鶴見俊輔『限界芸術論』から、純粋芸術、大衆芸術、限界芸術、誰からも切実に必要とされていない芸術、の四分類を借りた分析だ。
 範疇1は世界を解読する思想と技芸の質が問われる「純粋芸術」であり、観客もこれを必需としている。
 範疇2は「大衆芸術」としての「商業演劇」だ。娯楽を求める多数の観客が必需としている。劇団四季、宝塚、松竹(含歌舞伎)、吉本新喜劇などである。
 範疇3は、1でも2でもなく、プロとアマの区別のない、様々な意味で人々に「必需」とされる演劇である。かつての状況劇場、天井桟敷などアングラ演劇と呼ばれたもの、現在は曲馬舘由来の、野戦の月、水族館劇場などがこれである。
 範疇4は、本人たちが1の積もりでいながら2でも3でもない、どうでもいい演劇だ。実は「業界」の演劇の大半がこれであり、旧新劇系も旧アングラ系も旧八十年代小劇場系も大同小異である(ウワッ! 菅さん言い切っちゃった)。
 今後の講座の展開が楽しみだ。毎月第一月曜日(原則)午後6時開講。受講費1000円。会場:新宿常円寺、主催:福神研究所。







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