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評者◆秋竜山
10万円でウナギの蒲焼きを、の巻
No.3459 ・ 2020年08月08日




■どこへ行っても会話は同じ。「ネェ、食ったぁ」「食った、食った」「あたしも食ったけど、高いわねぇ、七千円だったのよ」「あたしの家では三千円だったけど」。昨年はこんな会話はあまり聞けなかった。今年はどこへ行っても、特におばちゃん連中が多い。土用のウシの日、ウナギの蒲やき。私も聞かれた。「食べましたですか」「いや」「……」「食べたい時に食べますから」「アラ、ソオ」。実情はよくわからないが、国から一人当たり一〇万円の支給があった。長生きしていれば、いいこともあるもんだと心から思う。別に国からは一〇万円やるから、ウナギを食べろ!! と、いうわけではないが、ちょうど土用のウシの日とかさなったと、いう理由である。思いもよらない現金が手に入ると国民はどのように考えるか。考えもさまざまである。本当に一円のお金にも困っている人。困ってはいないが、思いもよらぬ収入だ。めったにないことだ。それにしても一人一〇万円である。本当は困っている人に二〇万円やっても、困っていない人は一〇万円はがまんして困っている人にまわしてあげたいと思うのは誰でも思う。しかし、思うだけ思ってもたいしたものである。そして、私はちっとも困ってません!! と、いう人がいたとしても、お金というものは誰でもほしいものと昔から決まっているようだ。そこで、平等に一〇万円いただいた。サテ、何に使うか。タンスの中へしまい込んでしまって、これから先、世の中は悪くなっても良くはならないと決まっている。そして人生百年時代でもある。老後対策のために、タンスの奥深くへねむらせておき、その時がきたら。そういう考えは、けっして間違っていない。正しいだろう。五人家族だと五十万円、一人家族というか一人者には十万円。なんとなく不平等にも思えてくるが、がまんのしどころだ。みんな、うなぎの蒲やきを食ったという。私はそれに大賛成であった。こういう時でなければ簡単に胃の中へ入れてやるというものではない。もし、こんなお国のいきなはからいがなかったら一生、うなぎの蒲やきなどというものは口にはできないものかもしれない。
 井出洋一郎『知れば知るほど面白い 聖書の“名画”』(角川文庫、本体七二〇円)に、〈最後の晩餐〉という項目がある。
 〈キリスト伝の最後は、キリストがエルサレムに入り、磔刑を受け、埋葬されるまでの「受難」となる。(略)夕食を十二人の弟子たちとともにした。(略)キリストはパンを割いて弟子たちに分け、「これは私の身体」であるとし、ワインを分けて「これは私の契約の血」であるとして、皆に振る舞った〉。〈レオナルドの壁画「最後の晩餐」には、魚のマリネがレモンとともに描かれて、さすがイタリアン、と食通たちをうならせた。(略)古代から魚はキリストの象徴であり、信者たちも魚で表わすことが多い。キリストの身体の象徴であるパンと同じ意味を持つから選ばれた料理である。〉(本書より)
 もし、キリストの最後の晩餐に「うなぎの蒲やきが登場していたら……」と思うと、夢がひろがるというものだ。十二人の弟子と自分用に十三の蒲やきを注文することになるだろう。キリストがうなぎの蒲やきを一口くちにすると同時に、「ウーン、うなぎの蒲やきは日本に限る」とかいったら、どーしましょ。







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