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評者◆呆け天
複雑な老闘士の、万華鏡のような人生
ラストアイヌ――反骨のアイヌ歌人森竹竹市の肖像
川嶋康男
No.3454 ・ 2020年07月04日




■敗戦からほぼ半年後の1946年3月13日、北海道知事の認可を受けた「社団法人北海道アイヌ協会」が設立された。歌人・森竹竹市(1902~76年)は常任幹事として設立に参与し、協会機関紙『北の光』創刊号に「あいぬ民族の明確化」と題する一文を寄せた。
「私共アイヌ民族は、自分たちこそは真正日本人である自覚の下にアイヌ民族の誇りをもって平和日本建設の為にスタートを切ろう。嘗て侮蔑の代名詞として冠せられたアイヌ――自分たちもさう呼ばれることに依って限りない侮辱感を抱かせられた此の民族称を、今こそ誇りを以て堂々と名乗って歩かう。(中略)

時々詠草
アイヌてふ名をば誇りに起ち上がり
奴隷の鎖断てよウタリー等

侵された掠められた土地を還せよと
ウタリーは起てり強く雄々しく」

 ときに森竹竹市44歳、激しい主張であり、叫びです。ネットで検索すると、森竹竹市研究会の山本融定さんという方が、講演で「森竹さんは、死ぬまで(自宅に)国旗を揚げていた」と語っています。先住民としての誇りの、森竹一流の表現でしょう。
 とても一筋縄ではいかないアイヌの老闘士・歌人の評伝です。「優秀なアイヌ」として奮闘する鉄道員時代、日本海軍連合艦隊の室蘭入港に際してアイヌの舞踊で歓迎しようとする企画に対して「見世物扱いを中止せよ」と新聞投稿する激しさ、詩や短歌、檄文でアイヌ同胞の覚醒をうながす先覚者、離婚・再婚のときに見せた恋に対する一途さ、晩年の「町立白老民俗資料館館長」として見学者に接するみごとな髭の長老としての風貌・貫禄。そのときどきを全力をかたむけて生き抜いた。『北の光』に「雄弁にして熱の人、(中略)好漢惜しむらくは短気の性が玉に疵」と紹介されたケンカ上等の人生です。
 「ラストアイヌ」というタイトルは森竹が自分を「最後のアイヌ」と称していたことからとられています。「若いウタリー(同胞)に対しては自分のような過酷な歩みを断ち切らせたい」という願いから発せられたことばだろうと、著者は推察しています。
 新谷行は名著『アイヌ民族抵抗史』(三一新書、1972年)に「アイヌ・民族の世界の発見」という1章をもうけ、違星北斗(いぼしほくと)、バチェラー・八重子、森竹竹市を論じ、称えている。滅びぬ民族の魂が、彼らの短歌の叫びとなって噴出しているという論考は、いま読んでも新鮮です。森竹の「真正日本人」という主張は「アイヌ民族が日本人の中に同化したのではなく、アイヌ民族の中に天孫族が同化したのだ」という考えであり「古代東北における安倍貞任や藤原秀衡がアイヌ民族であったという自信」からきている。いわんとするところは分かるが「真正日本人」という主張については「同化主義の一変形でしかなかったといわれてもやむをえない」と指摘しています。わたしには、複雑な老闘士の、万華鏡のような人生の一断面と映りました。
 表紙の肖像写真が、アイヌの老闘士・歌人をみごとに映し出しています。







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