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評者◆伊達政保
いずれも希望的観測、情報軽視、対応計画の無さにより失敗――新型コロナ・ウイルス下で読み返した、『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫)
No.3453 ・ 2020年06月27日




■新型コロナ・ウイルスの影響で、予定していたライブも芝居もイベントも中止になり、外出することがなくなった。そのうちに緊急事態宣言で外出自粛、結局は家に立て籠もることに。TVのモーニングショーなどで情報を得ながら、終活としての資料や本の整理、レコードを聴きDVDを観るなど、やることは山ほどあるので時間が足りない。
 ふと、現在進行する状況に既視感を覚え、30年近く前に読んだ『失敗の本質‐‐日本軍の組織論的研究』を読み返したくなり、見当たらないので中公文庫の古本を入手。帯代わりの二重のカバーに並んだ絶賛の名前に驚いた。小池都知事をはじめ、今年度予算で医療改革と称して13万床の病床削減を求めた諮問会議のサントリーホールディングス新浪剛史など、こいつら本当にこの本を読んだのか。小池知事など3月23日まで夏のオリンピックの完全実施しか頭に無く、一年延期が決まった途端、コロナ対策でマスコミの前にしゃしゃり出て来た。7月都知事選への思惑が見え見えだ。
 この本は今や古典とも言えるものだが、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦を分析し、失敗の本質と教訓を導き出している。一つは作戦の前提が変化した場合の対応計画の軽視、つまりプランBやCを検討しない。また主観と独善から希望的観測に依存する戦略目的。今で言えば正常性バイアスに基づく戦略ということになるだろう。これらは今回の新型コロナ感染対策にまさに当てはまる。
 『戦前回帰「大日本病」の再発』(Gakken)の著者で戦史研究家の山崎雅弘はSNSで日本軍の問題点として、情報の軽視、独善的な情報解釈、兵站=補給の軽視、戦略の欠如、失敗を認めない、人的損害への無感覚、戦力の逐次投入、損害の隠蔽と戦果の誇張、情実人事、問題を指摘する人物の排除、失敗の責任を誰もとらないことなどを挙げ、その精神文化の継承者が現政権であり現在の新型コロナを取り巻く状況は「戦中回帰」とまで言い切っている。これらの問題点は2月段階からモーニングショーでもPCR検査、マスク、医療用具、感染者対策、病床数などについて指摘され続けていた。そもそも新型コロナ対策担当大臣が経済再生担当大臣とは、政権の方向があまりにも露骨だ。
 DVDを観て、失敗は日本軍ばかりではなかった。ユーリー・オーゼロフ監督『モスクワ大攻防戦』の赤軍と独軍、リチャード・アッテンボロー監督『遠すぎた橋』の連合軍、リドリー・スコット監督『ブラックホーク・ダウン』の米軍特殊部隊。いずれも希望的観測、情報軽視、対応計画の無さにより失敗していた。







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