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評者◆小嵐九八郎
新鮮にして凄まじく迫る力
No.3449 ・ 2020年05月30日




■コロナウイルス騒ぎで、市民一人一人の自縛、相互の見張りが決まってきて、もしかしたら、戦争が起きる時はもっと上からの強制力が加わり、しんどいんだろうなと“感心”する少し前、『現代短歌のニューウェーブとは何か?』(『ねむらない樹』別冊、本体1800円、書肆侃侃房)のムックが出た。
 早速、我が愛する「東京新聞」の夕刊(3月16日)の匿名コラム「大波小波」にこれへの批判が載った。「大波小波」は二十年ぐらい前までは物書きの中だけでなく、酷評を書かれた編集者を含め「東京新聞の良心」と言われていた。が、この十数年「よいしょ」「誉め」「悪口と思わせて逆」が多く心配している。
 「ニューウェーブ」については、当方はそもそも願望からの自称歌人で、詳しくない。だけど知っている、一九八七年、村上春樹氏が『ノルウェイの森』を出した時、俵万智氏が『サラダ記念日』を出し、何となく両ジャンルに“新しい流れ”が溢れ出るだろうし、やがて一九九一年七月、荻原裕幸氏が「朝日新聞」のコラムにこの言葉を初めて記してから、短歌界にはじわりと拡がっていき、定着したと。規定は曖昧ながら、どうやら「口語、恋、都市的雰囲気と場」の歌あたりらしい。現今の若手、中年初期の歌はこの流れそのものだ。
 「大波小波」では『ニューウェーブ』の最初の核である加藤治郎氏について「その名を短歌史に残そうという加藤らの意図」、「女性歌人を排除した」と、うーむ、コラムでも猜疑心を深追いする中身があっても良いが、文学を論ずる時に、標的以前に横たわる性善説や性悪説とか、人類発生以来の精神まで遡って言ってもなアと感じてしまう。
 実際、この短歌ムックを読むと、加藤治郎氏は出発点を四人としているが「ミーティングなし」、「局地的ゲリラ戦のようなもの」だけでなく“ニューウェーブ”の名に相応しいとして女性の紀野恵氏と水原紫苑氏を高く評価している。穂村弘氏は「わがままな一人ひとりの道」ほどの冷静かつ広いキャパシティで見ている、それにしても、あの頃の加藤、穂村両氏の歌は新鮮にして凄まじく迫る力を持っていた。
 待て、とも思う。村上春樹氏の『ノルウェイの森』からして「雰囲気に乗せる」、「常に執行猶予」「無思想性」ゆえに流行ったわけで、その延長戦を小説界はなお続けていて、おや短歌界もそっくりかも。
 歌人以外がこの短歌ムックを読んだ方が……。







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