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評者◆殿島三紀
人生は美しい終末に至る……――監督 ジュリー・ベルトゥチェリ『アンティークの祝祭』
No.3447 ・ 2020年05月09日
■『グリーン・ライ~エコの嘘~』などを観た。本数が少ないのは、やはりあれの影響である。
『グリーン・ライ』。地球のサステイナブルな今後について描いたドキュメンタリー映画。オーストリアのヴェルナー・ブーテ監督作品だ。洗剤や食品の材料であり、持続可能と表示されたパームヤシ。「それこそ環境破壊そのもの」と環境専門家カトリン・ハートマンに教えられた監督はサステナビリティを探る旅に出る。インドネシアではパームヤシの大規模農場のために焼き尽くされたジャングルに息を呑み、ルイジアナ州ではメキシコ湾原油流出事故の余波を調査。事故を起こしたBP社が使った石油分解剤が有毒なオイルボールとなって海岸に漂着していることに驚く。ブラジルでは土地を奪われた先住民族にも会った。まさに環境破壊をめぐる世界一周旅行。監督と専門家の珍道中という構成だが、実態は極めて怖い。 さて、今回紹介するもう一作は『アンティークの祝祭』である。カトリーヌ・ドヌーヴと娘キアラ・マストロヤンニが作中でも母娘を演じている。年老いても華のあるドヌーヴと父マルチェロ・マストロヤンニに生き写しのキアラの共演。そして、前世紀から引き継がれた素晴らしいアンティークの数々と古い屋敷。実の母娘が作中でも親子を演じることで生まれる不思議な仮想領域をさまよい、アンティークに語らせるように展開される家族の歴史に幻惑される。現実から目を背け、美しい世界に浸るのもこの時期には必要なことかもしれない。 監督はジュリー・ベルトゥチェリ。本作に登場する古い館は彼女の祖母が遺したものであり、お宝アンティークの数々も祖母と監督自身の持ち物だそうだ。懐かしさにとろけるような気持になるのはマルチェロ・マストロヤンニを髣髴させるキアラの存在か。多少ふくよかにはなったが、未だ『昼顔』当時の妖艶さを湛えるドヌーヴゆえか。そんなドヌーヴも76歳になった。結婚には至らなかったが、キアラの父マストロヤンニとは交流が続き、その臨終の席にも立ち会ったという。 ドヌーヴが演じるクレール・ダーリングは、とある村の館に一人で暮らす老婦人だが、近頃は意識や記憶も時々おぼろげに。そんな彼女がある朝、突然「今日が私の最期の日!」と確信。そこから物語は動き始める。 彼女はこれまで蒐集してきた重厚な家具、ルイ5世時代の仕掛け時計、からくり人形、食器、ダーリング家の肖像画など、屋敷を飾り、彩っていた数々のコレクションをガレージセールで売り払うことにしたのだ。見事な品々の破格な大安売りに多くの客が集まった。 その美しさと優雅さは変わらないが、時折、意識だけが飛び立っていくようなクレールの行動に翻弄される周囲。娘のマリーもそんな一人だが、クレールが彼女に放つ意地悪な言葉にかつての確執を思い出したりもする。彼ら母子には何かがあったのだろう。そんな過去と現在をひとつひとつのアンティークが語り聞かせてくれる。 古い映画の記憶と古い品々の醸す魔力にとりつかれる作品だ。年老いた母、そして、そんな母とうまくいかない独身の娘。身近な設定でありながら、キネマの神様に魔法をかけられたような気持になる。 母と娘ということ、歳を重ねるということ、一人で暮らすということ。過去へ飛び、現在に戻る。まるで、クレール自身のおぼろげな記憶のように進行する映画はやがて華麗な大団円を迎える。誰もが向かうことになる最期の時という終末――。 アンティーク、夏の午後のひそやかさ、埃とカビの古臭い物陰、小さな宝物。子どもの好きなものがいっぱい詰まっていながら、おとぎ話ではない。人生とその終わりを示す哀しくて華やかなエンディングノートのような映画だった。 (フリーライター) |
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