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評者◆ぽんきち
ウイルスとパンデミックの基礎知識
猛威をふるう「ウイルス・感染症」にどう立ち向かうのか
河岡義裕・今井正樹監修
No.3446 ・ 2020年05月02日




■新型コロナウイルス騒ぎになかなか終息の目処が立たない。本書はこうしたウイルスによるパンデミック(世界的大流行)とは何かに加え、そもそもウイルスとはどういう存在か、もしもひとたびパンデミックが起こったらどういった対策を取るべきかを説く。
 フルカラーで図版も多くわかりやすい一方で、ウイルスの構造などかなり突っ込んだ内容にも触れている。「本格的な教養書」の謳い文句にふさわしい作りといえるだろう。
 刊行自体は2018年であり、その頃、注目されていた新型インフルエンザを特に大きく扱っている。とはいえ、ウイルスや感染症についての基礎知識は、今現在大きな問題になっている新型コロナウイルスを含め、これから起こりうるパンデミックに備える心構えを身に付ける上で、役に立つものとなるだろう。
 構成としては、パンデミックとはなにかに始まり、ウイルスとパンデミック、主なウイルスの紹介、身体の中でのウイルスと免疫の闘い、そして感染やその拡大を防ぐための社会的・個人的な対策が述べられる。
 ウイルスが生物かどうかには議論のあるところだが、本書の監修者らは生物との立場をとる。ウイルスが特殊な点は、増殖する際に宿主の機構に依存するところである。その結果、ウイルスが過剰に増殖すると、宿主細胞が乗っ取られた形になる。ウイルスの毒性が強い・弱いといっても、ウイルスが毒素を作るわけではなく、ウイルスの増殖により宿主細胞が破壊されるために病的な状態になるわけである。また、ウイルスと闘うために体内で免疫が働き、サイトカインと呼ばれる生理活性物質群が大量に産生されることにより、炎症や発熱などの症状が起こる。身体を守るための反応が過剰になりすぎて致命的な結果を招くこともある。
 インフルエンザウイルスやコロナウイルスはRNAウイルスであり、変異が起きやすい。今回のコロナウイルスの元々の宿主はコウモリとする説がある。コウモリから直接ヒトに感染したのか、間に何らかの別の種がいるのか、またはまったく別の種が自然宿主なのかは不明だが、いずれにしろ、こうした人獣共通感染症はパンデミックの元になる可能性が高い。突然変異等でヒトに感染可能になったウイルスとヒトは初めて出会う。こうしたウイルスにはヒトは免疫を持たない。ワクチンを開発するにはある程度の時間がかかる。その間に無防備なヒトの間に感染が爆発的に広まることもある。感染力が高く、致死率が高いウイルスであれば結果は甚大なものになりうる。
 ではそのようなウイルスのパンデミックから身を守るにはどうしたらよいか。社会全体としては、流行の兆しをいち早く察知し、蔓延を防ぎ、重症度にしたがって治療していくことが必要である。個人としては、正しい情報を入手し、感染を防止する方策を取り(人混みを避ける、手洗いを徹底する等)、家で療養する場合には家族に移さないように静養することになる。特に家庭での看病の心得は具体的で参考になる。
 いずれにしても感染症というのは人と人が触れ合うところから広がるわけで、感染の蔓延を食い止めようとするならば、やはりなるべく人の大規模で密な接触は避けるべきなのだろう。今回は種々、対策が後手に回っている印象が否めないが、まずは感染の蔓延が早期に収まること、そして得られた知識や教訓が次回以降に生かされることを祈りたい。







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