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評者◆殿島三紀
保管庫に眠っていた1本のフィルムがあの時代をよみがえらせた――監督 豊島圭介『三島由紀夫vs.東大全共闘 50年目の真実』
No.3441 ・ 2020年03月28日




■『娘は戦場で生まれた』『子どもたちをよろしく』『ジュディ 虹の彼方に』などを観た。
 『娘は戦場で生まれた』。ワアド・アルカティーブ監督・撮影・製作。チュニジアに始まった「アラブの春」。その波は2011年4月、アサド大統領の一党独裁が続くシリアでも大規模な民主化要求運動を誘発した。首都ダマスカスでは治安当局と参加者が衝突し、負傷者が出る中、監督は戦争の脅威を記録することを決意。市民の苦しみや絶望を撮影し続けた。本作はシリアの闘いの記録であると同時に、戦地で子を産むことを選択した彼女自身の人生の迫真のドキュメンタリーである。
 『子どもたちをよろしく』。文部科学省で長く日本の子どもたちの実態と向き合ってきた企画・統括プロデューサーの寺脇研と企画の前川喜平の願いと脚本・監督の隅田靖の思いを形にした映画。文科省をワケあって辞めた2人の企画作品である。いじめ、性的虐待、ネグレクトに遭う子どもだけではなく、ギャンブル依存、アルコール依存で自分自身を追い詰めていく親たちをも描き出していく。重い映画だ。
 『ジュディ 虹の彼方に』。ルパート・グールド監督作品。その昔、「アナ雪」以上に子どもたちを熱狂させた『オズの魔法使い』。その主人公・ドロシーを演じたジュディ・ガーランドの人生を描いている。昼も夜も歌い続けさせるために、映画会社によって薬漬けにされ、監視され続けたジュディ。その影響から、大人になっても不安神経症に悩まされ、47歳の若さで亡くなる。ラストの「オーバー・ザ・レインボー」は圧巻。高らかな人生讃歌だ。主演のレネー・ゼルウィガーはアカデミー主演女優賞を獲得。
 さて、今回紹介するのは『三島由紀夫vs.東大全共闘 50年目の真実』である。豊島圭介監督作品。1969年1月安田講堂戦の興奮がまだ学生たちから消え去っていない5月13日、三島由紀夫と東大全共闘が直接対決する討論会が東大駒場キャンパス900番教室で開かれた。その全貌と時代の高揚を明らかにするドキュメンタリー映画である。
 この討論会は「三島を論破して立ち往生させ、舞台の上で切腹させる」と叫び、東大焚祭委員会を設立した東大全共闘が再び活動を盛り上げようとした目玉イベントだった。その一部始終を撮影したフィルムがTBSに保管されていたのだ。本作では、当時の映像に加え、平野啓一郎、内田樹、1960年代の研究で知られ、映画『首相官邸の前で』(15)の監督でもある小熊英二、三島にファンレターを出して以来、交流のあった瀬戸内寂聴が当時の時代背景や三島の人間性及び文学的・政治的・社会的バックボーンについて語る。70歳を超えた東大全共闘や盾の会1期生も登場し、思わぬ同窓会の感もあるが、東大全共闘の論客といわれた芥正彦が赤ん坊を抱いて壇上に登場し、三島由紀夫に喧嘩を吹っ掛ける様子など、まさにショーともいえる口喧嘩、もとい、論戦だ。観念的で、形而上学的、しかし、熱い議論を繰り広げる天皇主義者・三島と新左翼・東大全共闘。三島の鍛えぬいた背筋がピリピリした神経の昂ぶりを垣間見せ、現在も演出・劇作・舞踊・アートパフォーマーとして活躍する芥が余裕の笑顔で論を重ねる。It's showtime.
 1968年から1969年。世界中で学生たちが立ち上がり、アメリカでもヨーロッパでも政治の季節に突入していった熱い時代だった。香港の学生たちの死に物狂いの闘いを見て「なぜ日本の学生たちは何もしない?」と思った人は多いだろう。日本でも熱い時代があったのだ。「こんなに世の中のことを考える人たちがいたんですね」と語る若い人もいる。あの時代を知らない若い人の方が素直な感想を抱くのかもしれない。50年の歳月とはこういうことだ。
 そして、この討論会の翌年1970年、三島は自衛隊東部方面総監室で割腹自殺を遂げた。
(フリーライター)







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