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評者◆秋竜山
「底抜け」はなぜ可笑しいのか、の巻
No.3439 ・ 2020年03月14日




■小林信彦『女優で観るか、監督を追うか――本音を申せば11』(文春文庫、本体七五〇円)を読む。小林信彦さんといえば、喜劇に関する第一人者である。
 〈日本人にとって不幸なのは、戦後、英国の喜劇映画があまり輸入されなかったことだったと思う。アメリカの占領下では、アメリカ人が好む喜劇が公開されていた。例えば、凸凹という名で公開されたアボット&コステロの喜劇である。この二人の映画が消えると、ディーン・マーティンとジェリー・ルイスのいわゆる〈底抜けコンビ〉である。この辺を観ている人ももう少ないだろう。〉(本書より)
 当時、喜劇といえば〈凸凹〉であり〈底抜け〉であったろう。凸凹とか底抜けと聞いただけで笑えた。私も漫画を描き始めの頃は、この凸凹と底抜けということでギャグ漫画を描いたものであった。そして、〈底抜け〉というと、すべて喜劇になってしまうということだ。どうして、底抜けというと可笑しいのだろうか。底抜けとは、
 〈①底がないこと・物。②しまりがないこと・人。③とめどなく、はなはだしいこと。〉「――の善人」。(国語辞典より)
 あまり、いい意味ではとらえられないようだ。もし、自分のことを「あいつは底抜けヤローだ」と、いわれたら、つまりはバカにされているということである。抜けるということの意味においては、「あいつは、かなり抜けたヤツだ」があり、驚きのショックで「腰が抜ける」ことになる。腰が抜けると腰がストンと地におちて動けなくなってしまう。「歯が抜ける」「毛が抜ける」など、さまざまである。「抜ける」ことがよくないことであって、「抜く」となると違ってくる。自分で意識的に「抜く」という動作になると、むしろいい表現となる。「ダイコンを抜く」「ゴボウを抜く」「体の力を抜く」「肩の力を抜く」とか。
 昔、日本中のどこの村においても、村の青年たちが「青年団」というものに入団させられた。私の村でも十四歳から二十五歳までの若者たちである。この十年間は青年宿に夜になると集まり、寝泊りを強制的にさせられた。この集団の組織にはかなり封建的な名ごりがあり、いうなれば軍隊ってこのようなものであったかと、終戦になって軍隊というようなものはなくなっているが、村ではこのようなものが行われていたのであった。その青年団へ入団させられると、必ずさせられるのは、村祭りにおける、村人たちに紹介する意味でも舞台で踊らされることだった。だいたい四、五人ぐらいだった。花笠踊りのような格好をして、いよいよ出番となる。〽アーア、ちょいと出ました○○(村の名前)の若い衆が、四角四面の舞台の上で、音頭とるのも、おそれながら、と、いう歌い出しと共に、その四、五人の若い衆が横に並んで舞台に花笠をかざして登場する。そして、その歌に続いて、〈それ、スッチョイスッチョイスッチィナー、スッチャイ・バケツが十三銭。安いと思ったら底抜けだー〉と、いう歌にあわせて踊るのである。その時の、〈安いと思ったら底抜けだー〉という歌詞だ。この踊りを観ているものは、大笑いである。その歌を何度もくりかえし踊る。底抜けのバケツなど何の役にもたたない。それでもバケツというかどうかである。安いからよしとするか。そんな、昔の想い出が、本書の〈底抜け〉で記憶がよみがえったのであった。







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