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評者◆添田馨
現代権力論――権力悪を支えつづけるもの①
No.3439 ・ 2020年03月14日
■前代未聞の光景をいま私たちは目の当たりにしている。いうまでもなく現在の国会の予算委員会での話だ。一国の総理大臣が、明らかに嘘だとわかる答弁を繰り返す。追及する野党議員に対して、そっちも嘘つきだと言い返したりいらぬ野次を飛ばしたり、まるで子どもの喧嘩をみているようだ。
だが笑いごとで済ますことはできない。国の最高議決機関である国会で、こうしたレベルの低い応酬がくりかえされるのは、それが第二次安倍政権の権力体質がすすんで招きよせてきた議論の隠れたスタンダードなのかもしれないからだ。私がこれを絶対に看過してならぬと思うのは、総理のこうした答弁が当たり前に通るようになれば、それは、嘘がまかり通りまことが引っこむ文字通りの暗黒社会の到来を意味するからである。 例えばオルタナ・ファクト(Alternative fact/もうひとつの事実)とはトランプ大統領の政治手法を捉えた言葉であり、ほぼそれはフェイク(Fake/嘘)と同義だが、それが必要とされるのは裏側に不都合な真実(Inconvenient truth)を隠蔽する必要がある場合だった。これと同じ病状が、わが国では政治的な弁術の次元でより根深く進行しているのだと言っても過言ではない。 朝食にパンを食べた人間が、朝ご飯を食べたかと問われ、「ご飯は食べていない」と答える所謂「ご飯論法」(上西充子)のテクニックが、さしづめその本質を象徴的に言い当てているのではないか。パンを食べたことが後でばれても、自分は嘘は言ってないとの言い逃れを許してしまう巧妙な抜け道が、この論法にはある。だが、これは本来の言葉(ロゴス)ではなく、言葉の影(一般言語表象)を弄ぶ禁じ手であって、真実でなく虚偽を、善意でなく悪意をその内部に孕む。少なくとも国会答弁のような公共の場で行使されてはならぬものだ。 腐りきった現政権、その権力悪を表層で支えているのは、実はこのように薄っぺらな弁術のテクニックに過ぎない。そこでは真実の言葉こそが最大の武器になる。(つづく) |
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