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評者◆ムーミン2号
断章の積み重ねが大河を構成する
プラヴィエクとそのほかの時代
オルガ・トカルチュク著、小椋彩訳
No.3437 ・ 2020年02月29日




■ポーランドの架空の村・プラヴィエクに生きる人たちを描いた作品。物語の始まりは1914年にある男性がロシアへ兵役で出征するところから始まり、その子や孫の時代までの凡そ70年ほどが年代を追って書かれている。その男の出征は物語の始まりにすぎず、プラヴィエクに生きる人たちの様子が年を追って様々に描かれるのが本作だ。
 ご承知のように、ポーランドという国は何度も大国によって蹂躙され、支配され、を繰り返してきた国だ。もちろん、プラヴィエク村民はそんな時代の波を受けるし、二度にわたる世界大戦と戦後の国家体制には大きな影響を受けはするのだが、ここに描かれる個々人はもっと、そんなことよりも吾が身の生活、近親者の様子の方が大切である。そして描かれることの中心はそういう日常なのである。それは何もプラヴィエク村民に限ったことではないだろうが、日常を描くことで時代の大きな変化、変遷、あるいは激動までもが浮かび上がってくるのには驚かされる。
 この小説で特徴的なことは、各章が非常に短く、数ページで一つのストーリーが語られることだ。全部で八十四の断章からなる本作は、さらに各センテンスも時にけっこう短い。しかしこの断章の積み重ねは、一つの大きな流れとなって大河を構成している。
 そしてもう一つの特徴は、神の描き方だろうか。元領主のポピェルスキは、もらったインストラクション・ゲームに夢中になるのだけど、それはいつしか神の創世の物語と重なってくる。しかしながら、そのゲームは、神が世界を8回も創るというものであり、その間、神は年老いていくし時にはいい加減な営造でしかない時もある。唯一絶対の神がいるわけではなく、時々に、過ぎゆくある瞬間や変化の中に神が宿ることを登場人物たちは見ることがある。そして神は年老いてはいっても、いつまでも滅することはない。神をも不変の秩序の一ピースとしているようにも思えた。
 さらに、もう一つの特徴として挙げられるのは、年代を追うに従って減っていく男性と増えていく女性の対比だろう。ラスト近くで、年老いた男の娘が遠方からこの村に帰ってくるシーンがある。彼女には既に19になる子どもがいるのだが、その男は孫の性別を問い、女性であるとわかると「どうして息子を生まなかった」とブツクサ言う。遠方から帰って来たその女性は本当は村に帰るのが目的だったようだ。しかし、ラストは彼女がまたバスで戻っていくシーンになっている。この後、この村はどのようになるのだろうか。そしてそれは、この村に限ったこととは言えなそうだ。
 ノーベル賞作家の作品、ということで難解なのかも? と構えていたけど、文章の平易さとともに訳のわからなさからは程遠い作品だった。加えて、「東欧の想像力」というシリーズの一冊なので、あまり触れたことのない東欧諸国の作品は何か独特なものだろうか、という不安は間違っていたことがわかる(登場人物名は独特で、慣れるのには多少時間がかかるけど)。ただ、訳者が解説で、作者・トカルチュクは自身を「東欧」ではなく「中欧」の作家と位置付けていると紹介しているので、「東欧の想像力」という叢書名は少し外れているのかも知れない。まぁ、実は「東欧」「中欧」の違いも判然としないのだけど……。







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