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評者◆伊達政保
歴史改変SFの手法を駆使した著者得意の警察小説――佐々木譲著『抵抗都市』(集英社・本体二〇〇〇円)
No.3437 ・ 2020年02月29日




■年末年始に溜まっていた本を読んだが、やはり一番面白かったのが佐々木譲著『抵抗都市』(集英社)だ。一昨年『小説すばる』で連載が始まったのを読み始めたのだが、月刊のまどろっこしさに耐えきれず、途中から我慢して単行本化を待ち、一気に読んだのだ。
 冒頭、1891年に起こったロシア皇太子ニコライ暗殺未遂の大津事件の精緻な描写から始まり、場面がストンと変わる。東京に駐屯するコサック騎兵、「御大変」「クロパトキン通り」などの言葉に戸惑うが、そこで起こった殺人事件の捜査を行っていく所轄と警視庁の警察官、そしてこの事件に注目するロシア憲兵大尉。読み進むうちに日露戦争敗戦後の日本ということが次第に明らかとなって驚かされる。軍事、外交をロシアに委ね、統監府が存在する属国日本。そう、歴史改変SFの手法を駆使した著者得意の警察小説なのだ。
 ありゃ! こうした設定どこかで読んだ気が、光瀬龍著『征東都督府』(1975年)だ。戊辰戦争に勝利した奥羽列藩同盟と旧幕府主体の日本政府が日清戦争で清国に敗北、大清国征東都督府の統治下におかれている。その歴史状況を作り出した歴史転換者たちと、是正しようとするタイム・パトロール員の闘いを描いた歴史改変SFの傑作だった。
 さて本書だが基本は警察小説なので、ネタバレは避け興味の引く点を挙げておく。オイラ50年前、神田の中央大学に在学、舞台となった地域に土地勘がある。ニコライ堂が復活大聖堂となり、小川町交差点付近がロシア人街、その先に万世橋駅がある。ロシア化された街路と日本の街路の混在する都市。その描写によって町並みが浮かび上がってくるようだ。時は1916年、欧州大戦の真っ最中、開戦当初から日本はロシアとの二国同盟により二個師団を派兵、敗色濃いロシアの要請で第二次派兵を行おうとしている。それに反対する宮城前集会を巡り、和平派、同盟解消派、主権回復派などが入り乱れ、集会を暴動に転化させようと、ロシア統監銃撃暗殺、爆弾闘争が計画される。それにロシアの敗北によって主権回復を狙うポーランド人が暗躍。爆弾に関わった中央大学生は計画露見途中で爆死。
 後は読んでのお楽しみだが、著者は現在を踏まえて歴史改変を行っている。日露戦争敗戦は大東亜戦争敗戦、統監府はGHQ、二国同盟は日米同盟、欧州派兵は自衛隊海外派兵を意図していることは間違いない。そこで是非第二部も書いて欲しい。1917年ロシア革命勃発。オイラなら派兵された日本軍はトロツキー赤軍と合流、日本を拠点としたコルチャーク提督の白衛軍と闘い、日本を解放するため中央アジアとシベリアから日本へ攻め下る(笑)。







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