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評者◆k.m.joe
読みながら、何度も目頭が熱くなる
13坪の本屋の奇跡―― 「闘い、そしてつながる」隆祥館書店の70年
木村元彦
No.3433 ・ 2020年02月01日




■以前、早川義夫さんが本屋を経営されていた頃の著作を読み、取次からの配本が思い通りにはいかないという実態は知っていた。本書においても、売り上げ実績より店の規模を優先する「ランク配本」や、書籍や雑誌が勝手に送られてくる「見計らい配本」について詳細に説明されている。更には、配本分の支払いには余裕が無いのに、返品分の支払いはタイムラグがあるという本屋ファーストではない問題点も上げられている。その上、ネット買いやキンドルの普及などで「町の本屋」の廃業が増え、出版界全体が不況に陥っている現状があぶり出されている。
 本書は、大阪にある70年の伝統を持つ「町の本屋」隆祥館書店の奮闘の記録である。常連客との対話を第一義に、上記した問題点に果敢に立ち向かう姿勢は、隆祥館の存続の為というより、本を読むこと、その素晴らしさを語る事で創られる「文化」を守りたい一心から生まれている。
 出版不況や流通の問題点といったマクロな視点も本書の重点ではあるが、それに加えて、とにかく、登場人物が素晴らしい。著者の丁寧な筆致に気持ちが集中し、何度も目頭が熱くなった。
 創業者とその妻、二代目を継いだ長女と妹、長女の娘、各々が各々の立場で考え努力し行動するその姿勢に度々感動する。創業者と二代目ではそのスタンスも微妙に違う。ただ、創業者の、顧客の為、本屋全体の存続の為、出版文化の為というポリシーは受け継がれている。
 必ずしも本屋側の人間だけでなく、出版社側の危機感を持つ人物、イベント「作家と読者の集い」で共鳴する作家などの温かみも伝わり、優れたヒューマン・ドキュメンタリーとなっている。
 著者は大手取次の「天皇」と呼ばれる人物にも取材。根本的には、出版不況や取次・書店間の制度を問題視はしているのだが、現状果たしてどうなのか。本屋好きの一人としては、気になるところである。







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