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評者◆秋竜山
「ぱなし」という不思議さ、の巻
No.3427 ・ 2019年12月14日




■昔、母が子供たちを叱る言葉として多くあったのが「ぱなし」であった。子供らが家の中で遊んだ後、母の口から必ず出る、ひとこと。「また、遊びっぱなしだ」「やりっぱなしだ」。考えてみると、面白い言葉である。今まで遊んでいたタタミの上の、カルタ、スゴロク、メンコ、トランプ、ショーギ、マンガ雑誌等、遊んだまんまの、ひろげっぱなしである。母が「いくらいっても、わかんないんだから!!」、私が「わかってるよ」「ちっとも、わかってない。わかってたら、かたづけなさい」「わかったよ」「わかってない」。そして、母が、「そーいうものを、わかったんじゃなく、わかったつもりというんだ」と、いった。なにかにつけて、やりっぱなしが多かった。だから、ぱなしでよく叱られたのであった。〈やりっぱなし〉〈置きっぱなし〉〈ちらかしっぱなし〉〈フトンなどの、しきっぱなし〉〈食いっぱなし〉など、ぱなしには切りがない。ぱなしという不思議さ。日本語のすべてに、このぱなしがつくようでもある。〈行きっぱなし〉〈来っぱなし〉〈出っぱなし〉〈入りっぱなし〉〈寝っぱなし〉〈起きっぱなし〉〈叱りっぱなし〉〈叱られっぱなし〉〈言いっぱなし〉〈黙りっぱなし〉〈笑いっぱなし〉〈泣きっぱなし〉。ありとあらゆる言葉にぱなしがつく。
 西林克彦『わかったつもり――読解力がつかない本当の原因』(光文社新書、本体七〇〇円)で、
 〈「わかったつもり」の状態は、ひとつの「わかった」状態ですから、「わからない部分が見つからない」という意味で安定しています。わからない場合には、すぐその先を探索にかかるのでしょうが、「わからない部分が見つからない」ので、探索しようとしない場合がほとんどです。〉〈ものごとには、いろいろなものがあります。そして、ものごとにいろいろあるのは当たり前です。いろいろな人間がいますし、いろいろな形の車があります。ですから、いろいろあるということは、あまりにも当然です。したがって、「いろいろあるのだな」と認識した時点で、実は人はそれ以上の追求を止めてしまうのです。これが「いろいろ」という「わかったつもり」の魔力です。〉(本書より)
 母に、かたづけるようにいわれ、私が「わかってるよ」と、反論するようにいう。すると、母は、「わかってない」という。私は、かたづけるということは「わかっている」ということであり、母は「わかってないから、かたづけない」「わかっていたら、かたづけるはずだ」ということである。母も私も、「わかっている」のである。わかっているつもり、ということになるのだろうか。
 「つもり」も「ぱなし」も同じように妙な言葉である。「そーか、お前は、そーいう、つもりなのか」と、いわれて「そーいうつもりだ」と答える。「それじゃあ、いったいそのつもりとは何のことだ。お前はいつも『つもり』で逃げているんだ」と、母。「そんな、『つもり』にナットクいくわけにはいかない」と、母。「しかし、そのつもりなんだから」と、私。ある意味では「つもり」ほど便利ないいまわしはない。「ネエ!! あなた。本当にあたしと結婚するつもりがあるの。それとも、ないの」「そのつもりでいるんだから、あるに決まってるだろ」「それじゃあ、いつなの」「いつって、その内、近い内に、そのつもりであるんだ」「アア、そうなの、そのつもりでいればいいのね」。その、つもりとは、いったいなんだろう。







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