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評者◆小嵐九八郎
今に生きる絶大な凄みを説き明かす――水原紫苑著『春日井建』(本体一三〇〇円、笠間書院)
No.3425 ・ 2019年11月30日




■この欄を書き始めて三十年弱が経つけど、やっぱり“不正”の感覚とか恥ずかしい思いがあって自らの小説や歌集について記したことはない。でも、賞品はたったの「五千円の図書券」で分かるけど、K社を退職したかつての編集者が推す「K社のOB・OGの選ぶK社ブック大賞」とかを貰うことになった。K社、ええーい、講談社の中でも知っている人は少ないだろうが、町内会の老人クラブみたいなところから「しっかりせいっ」との励ましだろう。それは与謝蕪村についての小説で、俺は蕪村の俳句に惚れこんでいるだけでなく、かつての当方がLGBTについてまるで差別的に描いていたことへの自己糾弾があり、蕪村を、江戸時代は華であったろう“両刀使い”として、だからこそ、いろんな情について詩として作り得たのだと書いた。
 ところで当方の一知半解の水準を越えて、真っ向から歌いあげた先駆的歌人がいる。それも同性に対しての恋情、愛についてだ。確と経験に基づいている。“本格派”だ。
《男因のはげしき胸に抱かれて鳩はしたたる泥汁を吸ふ》
《夕焼けて火柱のごとき獄塔よ青衣の友を恋ひて仰げば》
 当方の経験だと、横浜刑務所も新潟刑務所も獄衣は灰色だったが、なるほど青みを微かに帯びていたっけ。これらを歌ったのは春日井建(一九三八~二〇〇四)、一七歳から二十歳までの歌を収め、三島由紀夫が序文を付けた『未成年』(一九六〇年刊)においてだ。
 壮年に入るともっと激しく、深くなる。
《逞しく草の葉なびきし開拓地つねに夜明けに男根立つ》――『行け帰ることなく』
 これらの歌を「かつて建の歌には『悪』や『背徳』や『禁忌』といった言葉が、枕詞のように貼り付いていた」として、しかし、「実はそのような数々の形容を超えた、歌本来の強度を持っている」などと解し、春日井建の短歌の今に生きる絶大な凄みを説き明かし、大老人の自称歌人を呻かせたのは、水原紫苑著『春日井建』(本体一三〇〇円、笠間書院)である。読もう、感動しちまうはず。







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