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評者◆秋竜山
ウソのような本当の話、の巻
No.3419 ・ 2019年10月19日




■「駕籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋をつくる人」という格言のようなものがある。今の時代、駕籠とか、担ぐとか、草鞋とかあるわけがない。時代劇である。しかし、その意味はよくわかる。たぶん江戸時代の頃のものだろう。かなり封建的でもある。それに今、駕籠に乗る人などいないだろうし、それを担ぐ人もいるわけもない。ましてや、草鞋をつくる人がいたとしても、はく人もいないだろうし、見たこともない。時折流れるテレビなどの時代劇などで、なんとなく知っているという世界である。もはや、この格言は若い世代には通じないし、通用しなくなってしまっているかもしれない。
 『人生を動かす いい言葉』(セブン&アイ出版、本体六八〇円)では、いい言葉として取り上げられている。田中角栄である。一九七二年に内閣総理大臣になり、角栄ブームを巻き起こした。「まァ、そのー」なんて口ぐせが物マネとなり子供から年寄りまで、「まァ、そのー」なんて、やったものであった。誰がやってもよく似るという不思議な言いまわしの物マネ芸であった。
 〈田中は叩き上げ人生を送ってきただけに、人の心の痛みは手に取るようにわかる。そのために、単に地位などで人を評価はしないという「人間平等主義」が底流にあった。「駕籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋をつくる人」が、田中の口癖でもあった。駕籠に乗るどんなに偉い人でも、担ぐ人がいなければ、またその人の草鞋をつくる人がいなければ成り立たないことをいっている。どんな組織も、下で支える人がいるというのが、田中の徹底したものの見方、人生観だったのだ。〉(本書より)
 しかし、よく考えてみると、古典というか古くさいのである。担ぐものも、人ではなくロボットにすればよいだろう。ロボットなら、草鞋などというものも不用である。本書では、田中角栄のいい言葉を紹介している。
 〈人はカネの世話になることがなによりつらい。そこがわかってこそ一人前〉〈人を叱るときはサシでやれ。ほめるときは人前でやることだ。〉(本書より)
 今の新聞ではない。昔の新聞には必ず〈政治マンガ〉がのっていた。どの新聞にも、それぞれの政局をテーマにしたマンガであった。記事など読まなくても、政治マンガさえ見ていれば政局がすぐさまわかったものであった。政治家たちがマンガ化されて、面白おかしくドタバタ劇を演ずる。それが面白く、子供までが毎日たのしみにしていたもので、私もそーだった。政治家のマンガ似顔絵も実物の本人顔よりもより本人に似ていて、マンガの顔で政治家をおぼえたものだった。政治家になっても一度もマンガに取り上げられない政治家もいた。残念ながらマンガになるくらいの政治活動をしていないということであった。政治家になってなにが哀しいかというと、自分がマンガにならないということであった。政治マンガにはじめて登場した政治家はその日の新聞を手にして、「バンザイ」をしたという話もあったくらいである。
 ある高名な政治マンガ家がそれぞれの政治家のマンガ似顔絵をデパートで展示した時、まっさきに駆けつけたのが田中角栄であった。そして、自分の似顔絵マンガの前で「やっと俺も、政治家の顔になった」と、自分の似顔絵に感動したということであった。そして、政治家も、マンガになるくらいの政治をしなくては一人前の政治家とはいえないだろう。と、言い合ったのがマンガ家仲間であった。ウソのような本当の話である。







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