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評者◆添田馨
日本国憲法の肖像――改憲論の変容と護憲②
No.3407 ・ 2019年07月13日




■現行憲法をめぐる改憲論のほとんどが触れていない問題がある。私は“憲法第ゼロ条問題”とそれを呼びたい。“第ゼロ条”とは言うまでもなく、日本国憲法前文を指している。
 護憲思想の核心部分をなす国民主権、恒久平和、さらに平和的生存権といった「崇高な理想と目的」が、ここにははっきりと明文化されている。憲法理念のいわば精髄が総論として説かれている箇所であり、それは、個々の条文を統べている普遍条項だとも考えられよう。
 現在、私が目にする範囲でのさまざまな改憲論は、その理念においてこの憲法ゼロ条をどれひとつ取っても凌駕する論理を有していないように見える。
 例えば、9条の戦力不保持を問題視する改憲論は、軍機能を有する自衛隊が実体として存在するにもかかわらず、戦力の不保持を謳う9条の建前のせいで、結果的に戦力を統制する法体系がいつまでたっても未整備のままであることを批判する。それが9条第2項削除論につながるのは、想定される戦闘行為の現実に即した、適正な法整備への布石としてであろう。
 また最近では、9条が国際法規範に反する事態を招いていることを理由に、護憲の考えそのものを強く否定する主張もある。具体的にはPKOなど海外に派遣されている自衛隊員の地位と生命を守るための法体系がまったくない過酷な実情を指弾してのことだ。
 これらの議論は、かつての反共右翼による日本の核武装化を主張するような倒錯的改憲論や、日本会議などによる戦前型道徳思想の復活を画策する時代錯誤な改憲論と比較すれば、きわめて現実的かつ格段に真摯な議論であり、まことに正当すぎる論点を提示していると思う。
 しかし、そうした政治的主張が共通して護憲思想そのものの否定に向かうことが、私にはとても残念なのだ。各論はもちろん大事だ。だが各論から発想された改憲論は、普遍条項たる第ゼロ条をついに超えられないのではないか。護憲が論争の具として政治利用される姿を見るのは実に悲しい。
(つづく)







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