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評者◆秋竜山
「浦島晋三」だったら、の巻
No.3406 ・ 2019年07月06日




■関裕二『わらべ歌に隠された 古代史の闇』(PHP文庫、本体七四〇円)では、浦島伝説が、語り継がれてきた理由などが、くわしく語られている。私が思うに(間違っているかもしれないが)、名前が大きく影響しているのではないかと感じるのである。あの、〈浦島太郎〉と、いう名前である。浦島太郎といえば、いかにも浦島太郎であり、それ以外の名前はありえないだろう。〈浦島次郎〉であったらどーだろうか。〈浦島三郎〉であったら、〈浦島四郎〉では、〈浦島五郎〉だったら。〈浦島一郎〉だったら、〈浦島晋三〉だったら。どれもピタリとこない。中途半端である。やはり〈浦島太郎〉でなくてはいけないだろう。
 〈浦島太郎といえば、何の裏付けもない民間伝承と思われがちだが、実際にはかなり深い背景が横たわっている。第一、浦島太郎は、正史が認めた実在の人物なのである。〉(本書より)
 これは、ちょっと驚きであるが、さもありなんという気持である。浦島といったら太郎でなくてはならないだろう。実在の人物、名前であったのだ。
 〈「日本書紀」雄略二十二年七月の条には、次のようにある。――秋七月に、丹波国の余社郡の筒川の人、瑞江浦島子、舟に乗りて釣す。遂に大亀を得たり、便に女に化為る。是に、浦島子、感りて婦にす。相逐ひて海に入る。蓬莱山に到りて、仙衆を歴り観る。語は、別巻に在り。〉(本書より)
 三十数年になるから、遠い昔になるが、私はあるテレビ番組の企画で丹波へ浦島伝記をたずねたことがあった。
 〈別巻は現存しないし、過去に実在したかどうかも定かではないのだが……。ただ、浦島太郎問題が、古代人にとってゆゆしき問題であったらしいことは、「日本書紀」ばかりでなく、「万葉集」や「風土記」までが、この人物を扱っていることからもわかる。〉(本書より)
 私が特に面白いと思ったのは、
 〈女人は、「さあ、蓬莱山へ行きましょう」と誘うので、浦島がついていこうとすると、女人は浦島の目を閉じさせ、あっという間に海の中の広く大きな島に着いたのだった。〉(本書より)
 浦島は女人によって目を閉じさせられ、あっという間であるが、閉じ終えると同時に目をあけると、蓬莱山へ到着したというのである。それが、どれくらいの間なのか。目を閉じて、一秒か二秒か。まばたきする間なのか。あっという間である。その間にどのような行動をしたのか。都内の飲み屋のカウンターで、かなり酒もはいり、動くのもめんどくさくなり、「アーアァ、これから、家へ帰らなくてはならないのか。目を閉じて、パッと見ひらいた瞬間に、わが家の茶の間に座っている。なんてことはないものかねぇ」と、私がいうと、隣の友人も、「そーだよなァ、パッと目をひらいた瞬間に女房が、あなた、お帰りなさい、なんてことないものかねぇ」。お互いのヨッパライの空想である。ところが、浦島太郎は女人によって、瞬間移動のようなことをして、龍宮城へ行ったのである。もしかすると、そのようなこともあるかもしれない。ヨッパラッて気を失って、パッと目をあけたら茶の間だったなんてことが。つまり、浦島太郎は、目を閉じた時、瞬間気を失ったということか。気を失っている間は、たとえ何時間でも、アッという間になるだろう。







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