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評者◆秋竜山
文豪は文豪、色あせることはない、の巻
No.3403 ・ 2019年06月15日




■彩図社文芸部編『文豪たちが書いた 泣ける名作短編集』(彩図社、本体五九〇円)。遠い昔になってしまったけど、文豪は文豪、色あせることはない。その文豪たちが現代人に涙を流させてくれるというのだから、泣けるということは時代をこえたものであることがわかる。哀しいことは哀しいことなんだ。新しい、古いはないんだ。そして、今やテレビは笑いに力をそそいでいる。どのチャンネルをひねっても、お笑い番組である。ということは個性にとぼしい番組ばかりということになってしまう。それでも、人気があるというのも百年の寿命をめざすのは笑い以外にないのか。テレビばかりではなく他の分野でも笑わせてほしいものである。昔は、テレビというものは無かった。お笑いに関して、どーだったんだろうねえ。映画とかラジオの時代があった。もちろん笑いもあったが、テレビの笑いほど、笑わなかったように思う。バカ笑いこそ百年寿命の源であろう。
 昔の映画で記憶に残っているのは、「必ず泣かせます」で、あった。そのために二枚や三枚ハンカチを御用意くださいのキャッチフレーズであった。笑うというよりも泣くというほうがゴラクになった。お涙ちょうだい映画で薄暗い客席でスクリーンに映し出される大悲劇の場面に、すすり泣きしたものであった。今の人達には想像がつかないだろう。
 〈泣ける名作短編集〉では、〈目頭がじんと熱くなる〉(オビ)であるがまさに、そのとーりであり、最大のゴラクであった。それで、百年生きられるかどーかはしらないが。
 〈本書は、文豪たちが書いた哀切に満ちた短編作品を中心に収録したアンソロジーである。10人の文豪たちから10作品を集めたが、扱うテーマは実に様々だ。〉(序より)
 〈眉山――太宰治〉〈蜜柑――芥川龍之介〉〈旅への誘い――織田作之助〉〈恩讐の彼方に――菊池寛〉など、など。昔、若い頃の想い出の中での作品ばかりである。その中に〈高瀬舟――森鴎外〉がある。この作品は、〈高瀬舟〉と聞いただけでジーンとくる。あまりにも遠い昔の記憶であるが、一生忘れることのない物語である。
 中学三年の時であった。小説ではなく、学芸会に他のクラスで、この作品が劇化された。なぜ、この作品なのか。当時、学芸会用として脚本集の中にあったのか。クラスの担任の教師が演出したものであったろうと思う。いずれにしても中学生の学芸会の演劇であったのである。下手くそな演技力であったが、その素人の子供の下手さ加限が真にせまった演技と化けたのであった。原作の〈高瀬舟〉の名作によるところが大であっただろう。そして、修学旅行が京都であり、バスの車窓から、高瀬川を見たのであった。この時も、感動した。せまい川であったことに驚いたのだが、そのせまさが余計に哀しみをましたように思えた。
 〈高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島を申し渡されると、本人の親族が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞いをすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、大阪へ回されることであった。その護送するのは、京都町奉行の配下にいる同心で、この同心は罪人の親族の中で、おも立った一人を大阪まで同船させることを許す慣例であった〉(本書より)。小説の出だしである。
 〈次第にふけてゆくおぼろ夜に沈黙の人二人を載せた高瀬舟は、黒い水の面をすべって行った〉
 小説はここで終わっている。泣かずにはいられない。







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