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評者◆秋竜山
名言の第一条件とは、の巻
No.3401 ・ 2019年06月01日




■「名言バカ」、別のいいかただと「名言好き」。独り住まいの狭いアパートの部屋の壁には、その「名言」を書いたメモのようなものが、あっちこっちと張られてある。これぞ、若さの証明。漫画家を志す友人のアパートの一室に、はってあった「名言」をマネて自分のとこへも。みんな同じようにマネしあったものだ。漫画家になりたい一心であった。その「名言」の中での一番人気は「天才は99パーセントが努力であって、あとの1パーセントが才能である」。エジソンの名言だったと思う。学歴のないものにとっての、99パーセントは救いであり希望であった。もちろん気休めである。努力って、漫画へのひたむきな情熱だけのようなものであった。昭和三十年代前半の空気は時代の純情さにある。まずしい時代であった。まずしさゆえの純情であり、「名言」が、生き生きしていた。こだわり知識愛好会『名言で楽しむ「世界の名画」』(PHP文庫、本体七四〇円)では、
 〈ダ・ヴィンチ、ムンク、ルノワール、フェルメール、クリムト、ゴーギャン、セザンヌ、レンブラントなど、世界の錚々たる画家の名言を取り上げ、作品とともに紹介する。〉(本書より)
 超一流になると、つぶやきひとことが名言となるのだろう。名言の第一条件といったところだ。無名な凡人が、いくらつぶやいても、間違っても名言にはならないだろう。たとえ、いいことをいっていたとしてもだ。たとえば、先の「天才は99パーセント……」にしても、隣のオヤジが女房にむかって、つぶやいたとしても、「なにを寝ぼけたことをいってんのよ。あんた大丈夫なの?」と、いわれるだろう。後世に名言を残したかったら、まずは超有名人になることが大条件である。名言というものは、後につくものである。「ウーン。なるほど、そーいうものか。たいしたものだ」と、万人に納得させるものには、超一流人にならなければならないという、むづかしさがあるのである。凡人による名言など聞いたこともないし、相手にもされないだろう。
 〈エドヴァルド・ムンク――「ぼくの人生は実に奇妙であった……ほとんど小説といってよいくらいだ。」(「地獄の自画像」)(本書より)
 あの「叫び」と、いう変てこな画で世界的に名をはせた画家である。いかにも、ムンクらしいと思わせるひとことである。あの作品をみてわかるような奇妙な画と共に、この名言が生きてくるのである。話にならないかもしれないが、たとえば私が、このムンクの名言をパクったとして。「ぼくの人生は実に奇妙であった……ほとんど漫画といってよいくらいに」。いいかげんにしろ!! といわれるがオチであろう。
 〈エル・グレコ――「芸術の達人といえども困難はあり、要はいかにも楽々と描いたように見せるかであろう。」(「聖衣剥奪」)(本書より)
 「この漫画は、夕べ一睡もしないでアイデアを考えて描き上げたものです」と、ねむい眼をこすりながら、編集者に見せたとする。編集者は無言。実にくだらん漫画をひと晩かけてよく描いたものだ!! とは、いえないが、さすが採用されなかった。漫画は苦しんで描いて、サラリと描いたように見られるのが、よいとされている。エル・グレコの名言のようにはいかないものである。







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