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評者◆秋竜山
わりきってしまう無神経さ、の巻
No.3399 ・ 2019年05月18日




■中学を出たばかりの私にとっての、羨望のまとは村から上京して美術大学へかよっている美大生であった。時折、村へ帰ってくると私はまっ先に飛んでいった。私の手にしているスケッチ帖を見てくれた。そして、「この世の中には、線というものは存在しない」と、いうようなことをいわれた。はじめて聞いた。私のスケッチ画を見て、線が描けていないね!! と、いわれれば、充分わかるが、線というものは存在しないなどといわれ、眼には線として見えるが実際には線そのものは無いというようなことをいわれ、「そーですか」と、しかいえなかった。それでは、線に見えるものはいったい何なのか、ということになる。絵を見ると線によって描かれている。特に日本画など線にこだわる芸術であると思っていたし、浮世絵だってそーだ。線が命のようなものである。線はあるものではなく、見えるものなのか。「ハハハ、冗談々々」と、いわれれば、「ハハハ……、びっくりしましたよ」で、終わるところであるが、そーでもないらしく、美大生のいうことだから、「そーですか」と、しか答えられなかった。
 志村史夫『いやでも物理が面白くなる 新版――「止まれ」の信号はなぜ世界共通で赤なのか?』(講談社ブルーバックス、本体一一〇〇円)では、オビに「難しくて退屈なのは、「学校物理」のせいだった!」と、ある。
 〈私たちに物体が“見える”ということは、物体から反射された可視光が網膜の感覚細胞、視神経を刺激し、その刺激を大脳が認識するということだった。色も同様である。色とは、光が目に入り、大脳にその刺激が伝えられたときに生じる“感覚”である。いわば、光は、そのような“感覚”を生じさせるものにすぎない。もう少しまともないい方をすれば、そのような“感覚”を生じさせるエネルギーが光である。〉〈光(電磁波)に宇宙空間が真っ暗闇なのは、光自体に色や形がないことのほかに、光を反射し、その反射光を観察者の目に届ける物質が何もない。つまり真空だからでもある。〉(本書より)
 〈物には色がない〉と、いわれるわけだが、画を描くということは、色を描く場合、特定のエネルギーをもった光を描くということなのか。画というものは、単純なものではなく、わかったような、わからない物を描くという作業であるのである。画家は画を制作しながら頭の中でそんなことを考えながら作品を仕上げていくのだろうか。しかし、それが事実であるとして「画は画、物理は物理」と、わりきってしまう無神経さも必要なのか。絵画とは何かなど、画も描けない画家になってしまいかねないのである。太陽の光は、「白」である。その白を分析して七色の絵の具となる。そこで矛盾が生ずるのは、七色の絵の具を全部まぜあわせると「白」になるのではなく、「まっ黒」になってしまうということである。それが、絵の具の正体であり、光の正体であるということか。キャンバスに絵の具の色をどんどんまぜあわせて色をつけていくと、しまいには、まっ黒の画になってしまう。
 〈ニュートンは、1704年に出版した著書「光学」の中で「光線には色がついていない」という有名な言葉を述べている。〉(本書より)
 よく、「頭が、まっ白になりました」なんて、いわれるが、頭の中が光になったということだろうか。たしか、昔は、「頭の中が、まっ黒になった」と、いったような気もする。どっちにしても、一瞬、色が消えてしまったということか。







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