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評者◆小嵐九八郎
文句なしに「読まにゃ損」の中身
逸脱する批評――寺山修司・埴谷雄高・中井英夫 ・吉本隆明たちの傍らで
齋藤愼爾
No.3396 ・ 2019年04月20日




■《人が人焼くや梟の淋しさで》、《寒き種子分ち農兄弟田に別る》、《百日紅死はいちまいの畳かな》などの最も短い詩、俳句を歌ってきて、『ひばり伝』(講談社)、『周五郎伝』(白水社)、『寂聴伝』『続・寂聴伝』(同)という普通の人人が最も感動して知りたい人物を書き、編集者でもある齋藤愼爾氏が『逸脱する批評――寺山修司・埴谷雄高・中井英夫・吉本隆明たちの傍らで』(本体1500円、コールサック社)を出した。齋藤愼爾氏が文庫本に書いた「解説」を集成したもので、普通は滅多に御目にかかれない珍しい類の本だ。
 ところが、本人は照れて『逸脱』としているのかも知れないけれど、「解説」する本の内容の的確性だけでなく他の古今東西の名著との関わりと意義、作者の心情、思想性への斬り込み、時代性を歴史を踏んでの明示と凄い。文句なしに「読まにゃ損」の中身である。そもそも、齋藤愼爾氏の読書量と、その読書の仕方の個別と実体と普通の結びつけ、他の作家との比較と繋がり、社会の実情への意識には驚愕するほかない。
 冒頭の、寺山修司についてにまず驚嘆する。俺も寺山修司の詩論の解説をしたことがあるけれど、百倍、いいや、千倍も濃い。寺山修司の詩歌が、私性の否定、虚構の奔放さとその中の真実性は知っていたが、自己の年譜まで虚構化したこと、当方もかつて嵌った競馬への寺山修司の哲学と美学についても憎いほどいい。その過程で出てくる、あのサドの『悪徳の栄え』の“続”の翻訳・評論をして裁判にかけられた澁澤龍彦が、酔って(たぶん)歌うのは何と「軍歌にかぎられ」ていたとのことなど仰天。
 他にも、吉本隆明・大岡昇平と並列で手塚治虫が出てくる。山本周五郎・五木寛之氏ばかりか北村薫氏の書評も現れる。ほぼ全てが、読書する歓びと全世界を獲得する嬉しさをくれる。再び言う、読まにゃ損。
 これを一冊の本にした詩人でもあるらしい編集者、評論家、出版社の経営者の鈴木比佐雄氏もかなりの、ごめんなさい、タマ。ある物書きの団体の理事選挙で、俺は躊躇いなく一票を投じた。







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