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評者◆伊達政保
遺された多くの脚本を上演し続けて欲しい――月蝕歌劇団・代表・脚本・演出の高取英による最後の作品「五瓣の椿」(原作・山本周五郎)
No.3387 ・ 2019年02月16日




■月蝕歌劇団・代表・脚本・演出の高取英による最後の作品「五瓣の椿」(原作・山本周五郎)を観た。これまで映画、TV化されたこの原作の著作権が切れるのを待ち望んでいた高取がどう脚色するか楽しみだった。淫蕩な母親の関係した男に恨みを残して死んだ父親の復讐として、次々に殺していく娘。法では裁かれぬ罪を罰するという内容である。時代を江戸天保年間から、満洲事変後の熱河侵攻の頃へと移し、日本軍の阿片権益もからめ、舞台は束京、上海、満洲、朝鮮と目まぐるしく変わっていく。時代設定の変更といい、後半の血しぶき飛ぶカタストロフィといい、やっぱり高取のホンはいいなあ。しかし、彼はこの作品の上演直前に急逝してしまったのだ。本当に残念でならない。
 オイラ高取と最初に知り合ったのは70年代半ば、彼が『音楽全書』『ジャズランド』などの雑誌の編集者だった頃だった。そうそう唐十郎編集『月下の一群』も手掛けていて、紅テントで高取自身売ってたっけ。その後、長らく会わなかったが、新宿梁山泊の芝居の打ち上げで十数年ぶりに出会った時、「僕も芝居をやっているんです。僕の芝居も観に来てくださいよ」と言われ、驚いた。寺山修司氏との関係や、劇作家として活躍し、月蝕歌劇団を立ち上げていたことなど、全く知らなかったからだ。
 そして月蝕歌劇団を最初に観たのが『新撰組in1944――ナチス少年合唱団』の初演。新撰組がナチスと共闘するというとんでもない芝居だ。日本軍に両親を殺された中国人少女(土方歳三の孫)が、日本の中国侵略の原点は明治維新=薩長政権にあると考え、侵略阻止のため時空を超えナチスの武器で武装した新撰組により明治維新を潰そうと画策する。少女は五稜郭で土方の身代わりとなって戦死、「薬売り」に扮した土方は「明治の元勲」を次々に暗殺、「北海道共和国」は内戦に勝利する、というストーリーだ。時空を自由に往還し「if」の歴史を正史と相対化することにより、現在に対する批評性を生む。これぞ高取ワールドだ。女優陣の歌や踊りも加わり「暗黒の宝塚」と称される所以。すっかりハマって、以後欠かさずに月蝕の芝居を観るようになった。
 芝居後の打ち上げがまた凄い。高取の人脈の広さもあって、演劇関係者ばかりか多士才々が集う。頭脳警察PANTA、元状況劇場大久保鷹、足立正生など。テック闘争(谷川雁専務対平岡正明氏らの労働争議)支援で出会った流山児祥とも再会した。そうした渦の中心にあって、高取は瓢々と人と人とを繋いでいた。
 高取亡き後も月蝕歌劇団は活動を続けるという。遺された多くの脚本を上演し続けて欲しいと思うのだ。







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