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評者◆秋竜山
希望とは間違いの産物である、の巻
No.3383 ・ 2019年01月19日




■大嶋信頼『無意識さんに任せればうまくいく』(PHP文庫、本体七〇〇円)に、〈あえて絶望に向き合うことで希望が見えてくる〉と、いうコーナーがある。
 〈先生は、一番好きな映画は「U・ボート」と「戦艦ポチョムキン」とおっしゃっていた。「U・ボート」は、沈んだドイツの潜水艦で「もう絶対に助からない」という中で繰り広げられる人間ドラマ。私の中では“絶望”というテーマになってしまう。だから、あまり観たくない。歴史的事実で「助からない」ことがわかっている。希望がないのになぜ、そんなものを観なければならないの?と思ってしまう。ここが大切なポイントで、アウシュビッツ収容所(第二次世界大戦中にユダヤ人が虐殺された場所)に収容されたヴィクター・フランクルが、殺されてゆく人たち、そして、自分もいつ殺されるかわからない状況の中で「生きている!」ことを実感していたという。私はそれに触れた時に、「今、生きている喜び」という感覚を抱いたのだった。「絶望があるから“今”の希望がある」ということなのかもしれない。〉(本書より)
 で、思い出したのは、頭木弘樹編訳『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ――文豪の名言対決』(草思社文庫)である。名人としたところが面白く、読みたくなってくる。
 〈希望は誰にでもある。絶望するよりは、希望をもつほうがいい。ゲーテ〉〈ああ、希望はたっぷりあります。ただ、ぼくらのためには、ないんです。カフカ〉(オビより)
 その昔、若い頃、マンガ家を夢みていたが、これは単なる情熱に過ぎず、俺みたいなものがマンガ家になんかなれるわけがないと思う気持のほうが強かった。それでいて、やっぱりマンガ家になりたかった。そんな時、ある人にいわれたことは、希望を持て、希望を捨ててはいけない。希望さえもっていれば、もしかすると間違ってマンガ家になれるかもしれない、ということであった。人生は間違いだらけであるから、ことによっては、間違いがおこるかもしれない。つまりマンガ家になれるかもしれないということだ。希望とは間違いの産物である。絶望というものがある。絶望というものは間違いではなく正しい人生のありかたかもしれない。人生は絶望によって成立しているからである。
 二人の男が無人島に漂着した。一人の男がいった。「ゲーテくん、きみが毎日やっていることはなんだね」。もう一人の男が答えた。「カフカくん、見てわからないのかね。ぼくのやってることが」「わかるから聞いているんだ。ゲーテくん、きみのそのムダな馬鹿げた行為が、ぼくにはサッパリわからないんだ。空ビンの中に〈助けてくれ!!〉と書いた紙切れを入れて海へ流しているが、なんのためにそんなことをしているのかね」。ゲーテがいった。「希望のためにだ」「アア……ゲーテくん、ぼくにはその希望というのがわからないんだ。希望とはムダなことをするということなのか。いったい誰がその流したビンをひろってくれるというんだ。よく、そんなことを信じてやっていられるね」「希望は必ずかなえられる」「アア……ゲーテくん。あまりにも絶望的な希望だ。やめたまえ」「やめない」「やめろ」「やめるものか」「また、今日もビンを流すのか」「流さない」「?。どーして」「もう空ビンが無いからだ」「アア……ゲーテくん。絶望的なことをいってくれるな」。







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