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評者◆秋竜山
火の用心……、の巻
No.3380 ・ 2018年12月22日




■かつては、「火の用心、マッチ一本火事の元」と、いったものであったが、マッチがなじみを失ってしまった。今の子供はマッチを知らないという。そーかも。マッチなど見かけなくなってしまった。火からマッチがなくなる時代だ。火が先か、マッチが先か。と、いう時代があったのに。冬になると一番に何を連想するかというと。火事と答える。今でも、そーかもしれない。火の見回り、はどーだろうか。火の回りともいった。火の回りと、今の子供は答えるだろうか。火の回りといえば、拍子木である。火の回りの打ち鳴す拍子木のカチッカチッという音をしっているだろうか。子供ならずも大人も、昔、子供の頃は聞いたけど!! と、いう。カチッチカチッかチャキチャキか。そんなことはどうでもいい。火事は冬だけのものではなく夏でも多くある。でも、火の回りは冬だけのようなものだ。あの拍子木のカチッカチッという音は、夜の町のなかをさびしげに響いてくる鳴る音であり、火の回りの爺さんというイメージが強くある。なぜ、夏の夜に、火の回りをしないのか。それとも、しているのか。いずれにせよ、冬の風物詩の感が強い。
 飯倉晴武編著『日本人 数のしきたり』(青春新書インテリジェンス、本体七〇〇円)では、〈拍子木はどうしてカチッカチッと二回叩くのか〉と、いう。たしかに、二回叩く。カチッカチッだ。「火の用心……カチッカチッ」である。「火の用心……カチッ」ではない。二回では、さまになるが、一回きりだと、ものたりなさが残り、ズッコケ感がいなめない。
 〈「火の用心」……冬場になると、火の用心の見回りがこのような声をあげて町中を練り歩きます。そして、掛け声のあとに拍子木をカチッカチッと二回鳴らします。また、神社に参拝するときも拍手を二度打ちますし、相撲で力士が打つ拍手も二回です。拍子木や手を二回打ち鳴らすことにどんな意味があるでしょうか。これにはさまざまな説がありますが、神社での「二礼二拍手一礼」の項でも紹介したように、一つは中国から入ってきて日本に大きな影響を与えた陰陽説に基づくというものです。〉(本書より)
 火の回りの拍子木を二回打ち鳴らすのは、なぜだろうか。神社のように「火の用心……二礼カチッカチッ(二拍子)一礼」に、いちいちしていたら、火の回りの爺さんも、「そんな、めんどくさいことやってられない!!」と、投げだしてしまいかねない。省略して「火の用心……カチッカチッ」なんだろうか。そして、カチッカチッという打ち鳴らす音も、神さまに打ち鳴らしているのだろうか。火の用心も神さまということか。火の用心という神さまのことか。それとも拍子木のカチッカチッという音も、たんなるリズムのせいか。だとしたら、かなり音楽的で心よい響きのあるリズムである。カスタネットを打ち鳴す音と同じだ。
 子供の頃、村の各家々で順番に火の回りをしたものであった。ひと晩中、順番に見回りした。子供だった私は深夜眠れないままにフトンにもぐって聞いてみると、家の前の道でカチッカチッの音が急にやんだ。立ちションでもはじめたのか。しばらくすると、またカチッカチッの音が鳴りはじめた。冬の夜は寒くて体もひえる。あの頃は村中のどこでも立ちションのできる世の中であったのである。







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