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評者◆小嵐九八郎
書き手と対象の牧水との距離も絶妙
牧水の恋
俵万智
No.3373 ・ 2018年11月03日




■俵万智氏の八月終わりに出た『牧水の恋』(本体1700円、文藝春秋)という若山牧水の伝記であり、恋の謎解きであり、歌論ともなっている本を見開いた。いきなり、小さな紙が目に入り、俳人の飯田蛇笏の読みのルビが「だこつ」でなく「だこう」となっているのを詫びて訂正してある。うーん“天下”の文藝春秋がかとがっくりきた。当方もある大手の出版社から蕪村についての小説を書き、芭蕉のかの「閑さや岩にしみ入蝉の聲」を引いたら、校閲の人から「閑さ」に「しずか」ではなく「のどか」とルビを振ってきた。仰天し、やがて悲しくなった。
 ところで、要の俵氏のこの本は掛値なしで迫る力に溢れている。牧水の大学時代の実質な初めての恋愛とそこでの身悶えと破綻が、確証を含めて推理もあり、そうか、女性の著者で洞察力があるせいかと呻くし、牧水の短歌へと燃焼して結晶化するプロセスは小説家の筆力では無理と思った――もっとも、俵氏は十年以上前から讀賣新聞に『トリアングル』という小説を連載していて、この言い方は的外れかも。
 牧水の相手の女はかなりで、焦らした挙句、既に人妻で二人の子持ちと判明。ここいらの俵氏の書き方は心理学者以上で、かつ、女性からの眼差しでも描いているので、、男性の伝記作家や評論家のように悪し様には扱わず、説き伏せる力を持っている。いけない、こう記すと女対男でしか物事を見ないセクハラになるかも。
 そしてこの牧水の苦悶が歌へと昇華して、ま、「砒素」「砒素」「砒素」と連呼して大いなる牧水がなアと感じさせる歌もあるけれど「いざ行かむ行きてまだ見ぬ山を見むこの寂しさに君は耐ふるや」のラストの七七の訴える力のある歌を含めて歌集『別離』となり、一九一〇年(明治末)ではかなり売れ、大評判となった。俵氏の『サラダ記念日』ほどではないとしても。書き手と対象の牧水との距離も絶妙で、俵氏への牧水の影響も自ら書いてあり、歌人のみならず“恋の懊悩による文学”を追う人にとって重いものをつきつけるはず。







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