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評者◆小嵐九八郎
視野が広く、反権威に立つ
時の余白に 続
芥川喜好
No.3369 ・ 2018年10月06日




■先日、8月10日の『讀賣新聞』の一面は、「完成車検査 不正拡大」「スズキ、マツダ、ヤマハも」とある。大企業の偽り、嘘、欺きはどこまで根が深く、続くのか。右とか左とかは死語になりつつあるけれど、右も左もそれへの憤慨の声が小さい。そもそも、原因の追及を深追いしない。マス・メディアも……。
 こういう時に、単行本の表紙の裏の文、「政治家や官僚や企業経営者の生息するあたりは、すでに倫理的崩壊も進行している。そこでは、人間が長い間かけて慎重に吟味し意味を付与してきた言葉の実が、ご都合主義的に使い回されてこれも崩壊に瀕している」が、活字は細かいけれど目に入り、「そうだあっ」と買うことにした。ちょっと高くて、税を含めないで2800円だ。
 タイトルは『時の余白に 続』。みすず書房刊。著者は芥川喜好さんである。
 古くて惚けた活字人間の俺は、でも世の中を比較しながら知りたいし、小説の素材の宝庫である新聞をA、M、Y、Tと四紙取っていて、かみさん殿に目の前で算盤の玉を弾かれ「あんた、原稿の収入にバランスが合ってない」と嫌みを言われる。が、止められぬ。
 それでいくと、何年前か“新聞不信”だったか「安倍迎合」とか書かれていた『讀賣新聞』の中で第四土曜日朝刊の“名物コラム”というか、讀賣基調を尻で蹴飛ばす“不思議なる真実コラム”があり、大震災以後六年分を集めたのがこの本である。
 長めのコラム、エッセイとしては四紙の中で掛け値なしに最も底を突いていて、視野が広く、反権威に立ち、文章も、故須賀敦子、堀江敏幸、京極夏彦級である。美術記者を長い間やってきて制作物を見つめ、それを作る人を知り尽くし、背景を学んできての蓄積された力のせいなのか。テーマは、むろん、美術だけではなく、忘れ去られた人、辺境で踏ん張った人、我ら売らずに死にゆく物書きの「それでいいのだよ、ね」まであり、勇気の根っこをくれる。2800円プラス税は安い。







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