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評者◆秋竜山
リンゴは今でも真っ赤である、の巻
No.3366 ・ 2018年09月08日




■森博嗣『集中力はいらない』(SB新書、本体八〇〇円)で、
 〈「リンゴは赤い」という言葉を知ると、子供はリンゴの絵を描くときに赤いクレヨンを塗るだろう。本当にそんな色なのだろうか。言葉を知らない子供ならば、自分が見たものを素直に描く。リンゴという名だとわからなくても、それを認識しているし、美味しいという言葉を知らなくても、その味を覚えている。実際、リンゴが赤いと思い込んでいるのは日本人だけである。ヨーロッパでは、リンゴは黄緑が普通で、「リンゴ色」とは明るいグリーンのことだ。〉(本書より)
 リンゴの色って、赤に決まっているだろう。赤以外の色もあったりするが、リンゴ本来の色は赤である。赤以外には見えないはずだ。ところが、ヨーロッパ人は赤には見えず黄緑に見えてしまうという。アダムとイヴのあのリンゴも、黄緑なんだろうか。禁断の果実がリンゴである。なぜ、リンゴなのかよくわからないが、リンゴの木の下で起こる最初の男と女の大ドラマである。サタンがヘビに化身して、女のイヴにリンゴを食べるようにすすめる。今まで一度も口にしたことのない果実である。どのような味がするのかもわからない。
 そして、私などが考えてしまうことは、リンゴのあのカタイ実である。まず歯がたたないだろう。果物ナイフでもあって、皮をむいて中身の白い身をちょうど歯ごたえがいいように細かく切ってそれを口にするのなら、大いに食べてみたいし可能であるだろう。ところがあの石のようなカタサである。グラグラでガタガタの歯ではとてもとても、歯ぐきから血が出たりしたらどーしましょうか。そこが、若さである。イヴは、そんな心配はない。丸かじりでガブリとやれるだけの若い歯をもっている。だからイヴの若い頃の話である。そういわれてみると、アダムの私にもそのようなことのできる時があった。リンゴの丸かじりの記憶もよみがえりもしないでもない。あの頃は、リンゴが禁断の果実ではなかった。だから、禁をおかして食べてみたいとも思わなかった。もしイヴも私のような立場であったとしたら、いくらヘビに食べるようにすすめられたとしても、食べもしなかっただろう。
 そこで問題として、リンゴが赤い果実であったということである。その色に問題があるようだ。もしかすると、ピンクの桃の実のほうが禁断の果実にふさわしいような気もするが、そこが非常にむずかしいところである。丈夫な歯で丸かじりする快感というところだろう。
 話が大いにそれてしまったが、昔、このような歌が大流行した。国民歌謡のようなおもむきもある。〽赤いリンゴに口びるよせて、黙ってみている青い空……と、いうような歌詞であった。この歌を知らないものは日本人ではないとまでいわれたとかいわれなかったとか。〽リンゴはなんにもいわないけれど、リンゴの気持はよくわかる、リンゴかわいや、かわいやリンゴ、という歌であった。考えすぎかもしれないが、子供には歌わせたくない、教育上よくない歌かもしれない。サタンのヘビが日本人に歌わせたのか。〽私は真っ赤なリンゴです、お国は寒い北の国……なんて、歌もあった。リンゴは今でも真っ赤である。







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